★猫丸しりいず第289回
◎アリアーガ:弦楽四重奏曲(全3曲)
カメラータ・ボッケリーニ
(NAXOS 8557628)
音楽に興味を持ち始めた子供の頃、私の頭に強烈に刷り込まれてしまった
イメージ。それは「作曲家=短命」。


これは恐らくは最初に名前を知ったクラシックの作曲家たち、すなわち、
モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーンが皆30代で亡くなっており、
彼らの伝記等も「夭折の天才」という悲劇性が妙に強調されていた事が
原因だろう。ショパン、ウェーバー、ガーシュウィン等、他にも30代の若さで
亡くなった大作曲家は多い。


しかし「作曲家=短命」というイメージは単なる偏見であって、シベリウス、
R.シュトラウス、ヴェルディといった長寿の作曲家も少なくないし、ヘンデル、
ハイドン、グルックといった人々も70過ぎまで生きている。今思えば、
「短命で可哀想」という同情では無くて「短命だったのに、大作曲家として
確固たる地位を築いている」事への驚きが強かったのかもしれない。
実際、私は上記の30代で亡くなった作曲家たちが、仮に60、70歳まで
生きていればもっと凄い境地に至ったのでは・・という感慨に耽る事は
(彼らには悪いが)ほぼ無い。彼らはその短い人生の中でも「充分」と
言って良い仕事を遺してきた。


しかし、これが「20代で亡くなった」という事になると、やや事情が違ってくる。
瀧廉太郎(享年23)、ペルゴレージ(同26)・・・。そして究極の存在と思えるのが
20歳にも満たずに逝ったホァン・クリソストモ・アリアーガ(1806~1826)。
スペインのバスク地方の中心都市ビルバオに生まれるが、アリアーガの
誕生日は1806年1月27日。「オッ!」と気付かれた方もおられるだろうが、
モーツァルトの誕生日のピッタリ50年後!である。何とオソロシイ偶然だろうか。
この「スペインのモーツァルト」、幼い頃から「本家」に比肩する天才ぶりを
発揮し、父親によって「神童」と売り出され(ここも「本家」とソック リ)、15歳 で
パリ音楽院に入学。順風満帆と思いきや、20歳を目前にパリで客死。
当然ながら遺された作品の数は少なく、未だ謎の多い天才である。


この謎の天才の「弦楽四重奏曲」。ビックリの隠れ名作。
雰囲気としてはハイドンとモーツァルトを足して2で割り、そこにロッシーニを
振りかけました・・・という感じだが、単なる「折衷的な習作」では無く、そこに
既にアリアーガ独自の味が感じられる。古典派の技法をベースに、ロマン派
的な味わいをプラスした完成度の高さは、作曲家の年齢を考えればまさに
驚異的。3曲の弦楽四重奏曲の他、交響曲も彼は1曲遺しており、こちらも
中々に名曲だ。アリアーガの作品はCD時代になってから急速に録音が
増えているが、今回ご紹介のNAXOS盤は流通量も多く、演奏、録音ともに
高レヴェル。


それにしてもアリアーガ。類まれな天才であった事は疑いが無い。
せめてシューベルト並みの30歳過ぎまで生きていたら、音楽史上で非常に
大きな存在になっていたかもしれない・・・と思うと誠に残念である。
ひょっとしたら、彼を出発点とした「スペインのロマン派」みたいな流れが
出来ていたかもしれないのに・・・。
彼の2倍以上も生きているのに一体俺は何をやっているのか・・・と自問自答
してしまう不肖猫丸ではある。