★猫丸しりいず第288回


◎パデレフスキ:交響曲「ポーランド」
イエジー・マクシミウク指揮 BBCスコットランド交響楽団
(英HELIOS CDH55351)
前回は米大統領選がネタであったが、今回は「首相の作曲した交響曲」。
とは言っても在任中に作曲した訳ではないので、「首相を務めた男が作曲した」
というのが正確か。


その男はイグナツィ・ヤン・パデレフスキ(1860~1941)。
今日主に「伝説の名ピアニスト」として記憶されている彼だが、第1次大戦後に
発足したポーランド第2共和国の第3代首相を務めた事でも知られている。
彼の80年の人生は、主にピアニスト⇒作曲家⇒政治家⇒ピアニストという
流れの、波乱に満ちた他に中々類を見ないユニークなもの。


彼はまず20歳代後半からピアノの超絶名手として大人気を博し、欧米の
音楽界で引っ張りだことなるのだが、あまりに売れっ子になり過ぎて、過労や
指の障害に悩まされてスランプに陥り(「働きすぎ」というのは矢張り良い事では
無いようだ)、50歳を過ぎると滅多に人前で演奏しなくなってしまった。
それからしばらくは作曲を手掛け、その後政治活動に転身。そして1919年には
ポーランドの首相と外相を11カ月に亘って務めた。彼は約5年の間、政治活動に
専念し、その間は演奏活動はおろかピアノに触れる事すら無かったのだと言う。


この男の凄いのはここから。還暦過ぎて後は悠々自適と思いきや、何と彼は
1922年11月にニューヨークのカーネギーホールで怒濤の復活コンサートを開催
し、センセーショナルな大成功をおさめ、以後80歳で死去するまで演奏家として
第一線で活動したのである。30年近くマトモな演奏活動から離れていた男が
齢60過ぎてから再び聴衆を熱狂させる演奏家として再起した・・というのは
驚異的。パデレフスキと言えば、ピアノの練習に関して「1日サボれば自分に
分かり、2日サボれば批評家に分かり、3日サボれば聴衆にバレる」という
大名言を遺した男。その張本人が「3日」どころか「30年」のブランクをものともせず
大復活!となっては「アナタそりゃ反則でしょう」と文句の一つも言いたくなる。


そんな彼が1908年に完成させた大作が「ポーランド」。彼のほぼ最後の作品
なのだそうだが、大編成のオーケストラを用いた所要75分!という巨大作。
「珍交響曲マニア」には是非ご一聴をおススメしたい怪作だが、一般的に
「隠れ名曲」として推奨するのはかなり微妙・・(笑)。
イヤ、「駄作」と一刀両断するような曲では無い。面白い所も多々ある。
ただ、パデレフスキ首相、あまりに肩に力が入り過ぎ。「書きたい事をすべて
書いてしまった」結果、75分もの肥大した曲になってしまったのだろう。もう
ちょっと言いたい事を我慢して、45分位にシェイプアップしてくれれば、もっと
ビシッと締まった名作になっただろうに・・・という思いを禁じ得ない。
CD1枚に収まる75分で思いとどまったのは、まあラッキーだったとも言えよう
(笑)。「言いたい事は全て言わないと気が済まない」というキャラは
政治家向きではあるが、作曲家としては限界を露呈した感がある。
ちなみにこの盤の指揮者、名匠マクシミウクは永らく埋没していたこの大作の
蘇演に大きく寄与したらしい。演奏水準は非常に高い。


以前に当「猫丸」で、文章を書くに当たってムズカシイのは「如何に書くか」
では無くて「如何に書かないか」という点だという私の実感を記した事があったが
にも似たような部分があるのかもしれない。ああ、「凝縮」って本当に
ムズカシイ・・・・