★猫丸しりいず第287回


◎ハリス:交響曲第4番「民謡交響曲」 第6番「ゲティスバーグ」
マリン・オールソップ指揮 コロラド交響楽団(4番) ボーンマス交響楽団(6番)
(NAXOS 8559227/4番 8559609/6番)
米大統領選の共和党候補にドナルド・トランプ氏の指名が事実上決定・・という
ニュースが先日世界を驚かせた。この結果は、当初は誰も(恐らくは
トランプ氏自身も)予測をしていなかった事ではないだろうか。


今年(2016年)11月の本選挙がどういう結果になるかは分からないが、ここまでの
過程だけでもこの出来事がアメリカ合衆国という国家と共和党という政党に
とって、様々な意味で大きな転換点になる事は間違いないだろう。
今回は「共和党」と聞いて私が反射的に連想してしまう作曲家をご紹介。
その人の名はロイ・ハリス(1898~1979)。「カール・ベーム世代」でオクラホマ出身
のアメリカの作曲家である。


なぜこの人と共和党が私の中で結びついてしまったのか。もう10年以上前だが、
ロイ・ハリスの作品についての文章の中で、こんなフレーズに出会ったのだ。
「デカダン的、厭世的なものの何もない質実剛健なアメリカ人を誠実に描いていて、
これを聴けば共和党支持者の心映えがわかる」。コトバの主は(確か)片山杜秀さん
で、「相変わらず的確かつ面白い事を言うな」と感心しながら読んだ記憶がある。
ハリスはカリフォルニアで学んだ後、コープランドの推薦でパリに留学し、あの
ナディア・ブーランジェ女史に師事したという人で、米国の作曲家の中でもかなり
「大物」と呼んでよいポジションにありながら、日本ではお世辞にも親しまれている
とは言えない。


彼の作品の中で辛うじて知られているのは、バーンスタインの録音がある「交響曲
第3番」だろうが、正直あまり「とっつきやすい」作品とは言えない。ガーシュウィンや
コープランドの曲のようなキャッチーな親しみやすさに乏しく、何だか武骨でゴリゴリ
した感じである。その素朴さこそがハリスの音楽の魅力ではあるのだが。


今回とり上げた2曲はアメリカ音楽マニア以外全く知られていない作品ではあるが、
いずれも「理想を追い求めていた古き良きアメリカ」の匂いに満ちた、中々面白い
曲である。「第4番」は「交響曲」と銘打ってはいるが、お馴染みのアメリカ民謡を
オケと合唱がメドレーで奏でる・・という「モートン・グールドですか」と突っ込みたく
なる作品。しかし、グールドのような器用さ、サービス精神のようなものは稀薄で、
とにかく素朴でむき出しな感じが微笑ましい。「第6番」は「ゲティスバーグ」という
タイトルから明らかなように、アメリカに多数生まれた「リンカーンモノ」の作品の
一つ(そういえばリンカーンは共和党の大先輩)。「人民の人民による・・・」の
あの「ゲティスバーグの演説」を引用した4つの楽章から成る曲だが、コープランド
の「リンカーンの肖像」のようにナレーターの語りが入るわけではなく、オケだけで
進められる。穏やかに始まり、闘争を経て勝利へ・・というありがちな構成だが、
器用さは無くとも堅牢に組まれたという趣きのこの「6番」、聴きごたえある佳作だ。
ちなみに1944年の作品で、その「愛国的」な雰囲気は第2次大戦の只中という
時節と無関係では無いだろう。


ご紹介の2枚は、NAXOSの膨大なカタログの中でも最も偉大な成果と言える
「アメリカン・クラシックス」のシリーズに含まれており、このレーベルに多数の
優れた録音を残しているオールソップがここでも素晴らしい演奏を聴かせる。


様々な問題を抱えつつも、「理想」に向かって進もうとするバイタリティと、多種
多様な文化を柔軟に受け入れ、消化する懐の深さ。これこそがアメリカという国を
「超大国」に押し上げた原動力であった筈であり、8年前にオバマ氏が大統領に
選ばれた際の選挙戦ではまだそういう「アメリカらしさ」が随所に感じられたのだが、
今回の選挙戦からは、そういう「昂揚感」みたいなものがサッパリ感じられず、
「煮詰まり感」が漂っているように思える。一体アメリカ(そして共和党)は
これから何処に向かっていくのだろうか?