★猫丸しりいず第286回


◎コダーイ:歌劇「ハーリ・ヤーノシュ」(全曲)
フリードマン・レイヤー指揮 モンペリエ国立管弦楽団・歌劇場合唱団
ジェラール・デパルデュー(語り)
ベラ・ペレンツ(Br)、ノラ・グビッシュ(Ms)他
(仏ACCORD 4768474 ※2枚組)
「全曲のいいとこ取り」という趣きの「組曲」という楽曲がある。
限られた時間で作品のエッセンスを味わえる・・という点で中々重宝する
「組曲」ではあるが、今回はあえて「全曲のススメ」。


「全曲」と「組曲」を色々聴き比べた経験のある方ならご存知だろうが、
「組曲」で慣れ親しんだ曲の「全曲」に初めて接した時に、「組曲」の曲順が
全曲のそれと全然違ってビックリという事が少なからずある。「くるみ割り
人形」「眠りの森の美女」「ペール・ギュント」等が代表的な例だが、「組曲」
は「全曲」の単純な「時系列的抜粋版」では無いのだ、という驚きと共に、
「楽曲としての聴き映え」にポイントを絞った「並べ替えの巧みさ」に感心
してしまう事も度々だ。中には「アルルの女」のように、ほぼ「リメイク」と
言って良い作品もあるが、これなど「断片的な劇伴から、よくぞここまで
聴き ごたえ充分の組曲を・・・」と感動すら覚えるケースである。
(これは以前に「猫丸」でもとり上げた事がある。詳しくはコチラを・・・


こういう事柄は「全曲」を聴いて初めて解る事。それゆえ「全曲のススメ」
なのである。


コダーイの名作組曲「ハーリ・ヤーノシュ」。この曲が元々は「オペラ」であり、
その「全曲盤」が存在する事は意外に知られていないのではないだろうか。
オペラというより、セリフと音楽が交互に進行する「ジングシュピール」と
呼ぶのが相応しいと思えるこの作品の初演は1926年(プッチーニの
「トゥーランドット」と同期生!)。20分強とコンパクトな「組曲」に比べると、
このオペラ全曲は堂々2時間。その差はあまりに大きく、果たして「興味」
だけで長丁場を持ちこたえられるのか?と思われるかもしれないが、
それは杞憂と言ってよい。少なくとも、「ほら吹き爺さんの荒唐無稽な自慢話が
素材」というこの曲に関する基礎知識さえしっかり持っていれば、充分に
楽しめる楽しい作品である。


この全曲の数少ない録音の中で、最も有名なものは恐らくイシュトヴァン・
ケルテス指揮のDECCA盤だろうが、今回南仏モンペリエ・オペラのライヴ盤
をご紹介。風光明媚なモンペリエの街のこのオペラハウス、マニア狂喜の
珍曲オペラを果敢に上演しACCORDレーベルに録音している。チレアの
「アルルの女」、フンパーディンクの「王様の子供達」、レスピーギの「沈鐘」、
バーナード・ハーマンの「嵐が丘」等々、ディープすぎるラインナップだが、
この「ハーリ・ヤーノシュ」もその活動の一環として2004年に上演されたもの。
歌唱はハンガリー語だが、語りの部分はフランス語。この異言語の組み合わせ
が若干珍妙ではあり、語りもハンガリー語だったら・・と思わなくも無い。
ただ、この手の珍しい作品の上演にあたっては、作品への理解を深めるに
当たって上演地の「地元」の言語を用いる、というのはそれで一つの見識
なのは確か。実際、この上演、聴衆には非常にウケていて、終演後も
大喝采。演奏のレヴェルも中々高い。ただ、実演の機会が稀少と思える
作品だけに映像があればもっと楽しめたかも・・・とも思う。


「組曲」と「全曲」の知名度の乖離があまりに大きい「ハーリ・ヤーノシュ」。
実に惜しい。コダーイの好きな方、「ハーリ」の組曲が好きな方、是非ご一聴を。
最後にしつこく「全曲のススメ」。