★猫丸しりいず第285回


◎アージェント:ヴァレンティノ・ダンス、エドガー・アラン・ポーの墓 他(管弦楽曲集)
大植英次指揮 ミネソタ管弦楽団
(米REFERENCE RECORDINGS RR91CD)
◎モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番
ワルター・クリーン(P)
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮 ミネソタ管弦楽団
(国内コロムビア/VOX COCQ84707~ ※5枚組)
このところクラシック音楽界のみならず、他の音楽ジャンルにおいても大物の
訃報が相次いでいるが、プリンスの突然の訃報にはさすがに驚いた。
マイケル・ジャクソンの急死にも驚かされたが、プリンスの死はまさに青天の霹靂と
言ってよく、CNNやBBCがトップニュースとして、かなりの時間を割いて報道していた
事も、彼が音楽界に与えた多大な影響を物語っているようで、非常に印象に残った。


CNNのニュースはアメリカ、ミネアポリスの彼の自宅前に大勢のファンが詰めかけ、
その突然の死を悼む様子を伝えていたが、その中でリポーターが、「プリンスは
どんな大物になっても、故郷のミネアポリスを離れなかった事で、ミネアポリスの
人々に本当に親しまれ、敬愛されていた」と述べていたのに大きく心を動かされた。
マイケル・ジャクソンやマドンナと同じ1958年の生まれで、私が大学生の頃の
音楽シーンに(そして今日に至るも尚)絶大な影響を与えたプリンスこと
プリンス・ロジャーズ・ネルソンの早過ぎる死を悼み、冥福を祈りたい。


プリンスらミネアポリス出身のミュージシャンたちの生み出した音楽は「ミネアポリス・
サウンド」と呼ばれ、世界に拡散したが、今回は言わばクラシック界の「ミネアポリス・
サウンド」と呼べる作品をご紹介。それはアメリカの作曲家、ドミニク・アージェント
(1927~)の作品群。


ミネアポリスを本拠とするミネソタ管弦楽団は1903年創立の全米でも「老舗」格の
名楽団。前身の「ミネアポリス交響楽団」の時代からドラティやスクロヴァチェフスキ
と多くの名録音を残し、その後もマリナー、デ・ワールト、ヴァンスカ等名だたる指揮者
たちに率いられてきた。アージェントはこのオケに永きに亘って数多くの作品を捧げ、
1997年には楽団から「桂冠作曲家」という称号をもらったという御仁である。
デ・ワールトの後任としてこのオケの指揮者に就任した大植英次は、この作曲家の
作品を内外で良く演奏しているようだ。アージェントの作品はアヴァンギャルドな要素が
全く無い保守的で聴きやすいものばかり。最初に入っている「ヴァレンティノ・ダンス」は
サイレント映画時代のハリウッドの大スター、ルドルフ・ヴァレンティノが題材のタンゴ。
きらびやかな響き、ちょっと捻った展開等、中々サービス精神?に満ちた面白い曲。
他にも四季を描いた「リング・オブ・タイム」等全部で5曲が収められているが、どの
作品も「きらびやか」ではあるものの、決してゴチャっとした「暑苦しさ」は無く、キッチリ
と整理整頓されたクールな音響が印象的である。


思うにこの「クールな響き」という特色は、ミネソタ管という楽団の特色でもある。
20年に亘ってこの楽団を鍛え、黄金時代を築いたのはスクロヴァチェフスキであり、
VOXに録音したラヴェル、ストラヴィンスキー、バルトーク等は独特の澄んだ、クールな
味わいで存在感を放っているが、忘れてならない名盤がソリストにワルター・クリーンを
迎えたモーツァルトの「27番」の協奏曲。彼岸が見える様なこの曲の清澄さをここまで
見事に描き出した演奏は、他に中々無い。実演を聴いた時の圧倒的な感銘を
思い出させるクリーンのピアノだけでも充分素晴らしいが、そこに「ミスターS」とミネソタ管
の澄み切った伴奏が付くのだから、まさに「鬼に金棒」級である。カップリングされた「17番」
も大名演。天上のプリンスの魂に、彼の愛した「地元産」のこの「27番」の演奏を捧げたい
と思う。


プリンスさん。安らかに。