★猫丸しりいず第278回

◎シューベルト:交響曲第1番~第4番
ズービン・メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
(豪DECCA ELOQUENCE 4803291)
ある音楽家に対するイメージは、その聴き手の年代によって全然違ってくる。
当たり前の事ではあるが、結構忘れがちな事柄でもある。
それに気づかせてくれたのが、ズービン・メータ。

先日20~30歳代のクラシック・リスナーと話をした時に、メータという指揮者に
対するイメージが、私の持っているそれとあまりにも乖離している事に驚かされた
のだ。恐らくは1990年代後半以降にクラシック音楽を聴き始めた彼らにとって、
メータは「色々やっているけど、今一つよくわからない指揮者」のようなのである。
キツイ言い方をしてしまえば「影の薄い何でも屋さん」的イメージなのだろう。

私がクラシックに本格的に「開眼」した中高生の頃、すなわち1970年代後半の
メータはまさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」だった。DECCA(当時は「ロンドン」だったが)
からは毎月のように新録音が発売され、ファンの話題をさらっていた。
「完璧無比」なショルティ&シカゴ、クールなマゼール&クリーヴランドという同時期
のDECCAのスターたちに比べると、メータ&ロサンゼルス・フィルの演奏は幾分
「やんちゃ坊主」という趣きではあったが、その輝かしさと躍動感には有無を言わせぬ
魅力があった。マーラーの「3番」「5番」、「ツァラトゥストラ」「春の祭典」「惑星」
「スターウォーズ組曲」、「シェエラザード」、エドガー・ヴァレーズの管弦楽曲集、
チャイコフスキーやドヴォルザークの交響曲・・・。
1960年代後半~1970年代にかけて彼らの残した名盤はまさに枚挙にいとまが無い。
30~40歳代というまだ「駆け出し」と言える年齢で、ロス・フィルの他、ウィーン・
フィルやイスラエル・フィル等とも多数の名盤を生み出していたメータ。しかし、
1980年代後半には、残念ながら彼の存在感は非常に薄れてしまった。

上記の過程をリアルタイムで辿った私には、メータの輝かしい時代を知らない若い
世代の聴き手が、彼に対してあまり「冴えない」イメージを抱いている事は不思議には
感じられない。大きな期待を担って着任したニューヨーク・フィルで目立った功績を
残せなかった事が後々まで響いてしまったのだろうか? それだけでは無いように
思う。暴論かもしれないが、ニューヨークへの「栄転」に伴ってDECCAを離れてしまった
事。これがメータにとって最大の失策だったのでは・・と私は感ずる。

「演奏家の長所を存分に引き出す音づくり」という点において、20世紀後半のDECCAは
本当に凄かった。メータに関しても、ロス・フィルとの録音は男性的でマッチョな輝かしい
サウンド、イスラエル・フィルとの録音はしっとりとした落ち着いたサウンド・・という感じに
「どの曲目をどのオケと録音するか」という部分も含めて考え抜かれた仕事ぶり。
音楽ソフトという商品は演奏家と制作スタッフの共同作業のたまものである、という事を
メータのDECCA録音は改めて認識させる。ニューヨーク・フィルへの着任と共に、彼の
録音はCBS SONYから出る事となる。最初期の「展覧会の絵」「ペトルーシュカ」
「英雄の生涯」等の録音にはまだDECCAとは違う意味で「攻め」の姿勢が感じられて
先行きに期待を抱かせたのだが、時間が経つにつれて方向性が定まらなくなり、
その後のTELDECやEMIへの録音もメータの持ち味を生かしているようには思えなかった。
当時の楽団とレコード会社の繋がりの強さは今日のそれとは比較にならず、止むを
得なかったのかもしれないが、ニューヨークに移ってからも彼がDECCAとの録音を
続けていてくれたら・・・という思いは私から離れる事が無い。

メータのDECCA録音の中で最近聴き直して、オッ中々良いな、と再認識したのが
シューベルトの交響曲。どうしても「ド派手系」の曲目が目立つ彼のDECCA録音の中では
このシューベルトの「交響曲全集」は初出時からあまり目立った存在では無かった。
しかし、メータの恰幅良い指揮とイスラエル・フィルの美しい響きが上手く融合したこの
全集は独特の魅力を放っている。中でも日頃軽くあしらわれがちな「4番」までの4曲が
秀逸。若干「立派過ぎる」きらいもあるが、「2番」「4番」などは曲そのものの価値が
上がったような感じがする程だ。

30歳代以下の若いリスナーの皆さんに、中高年世代を代表して?不肖猫丸からの
メッセージを・・・。是非1960~70年代のメータの録音を聴いて欲しい。
こんなワクワクする演奏を連発する「インドの星」だったのだ。メータは。

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