★猫丸しりいず第276回

◎デュカス:ラ・ペリ
 フャリャ:ハープシコード協奏曲・三角帽子(全曲)
ピエール・ブーレーズ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
キプニス(ハープシコード)
(SONY SMK68333)
昨年暮れから最近にかけて、指揮者の訃報が相次いだ。前々回にとりあげたマズアの
他、パイタやキャプランといった個性派、そして今度はブーレーズである。
20~21世紀のクラシック音楽界において彼のもたらした影響は、作曲家としても指揮者
としてもまさに絶大なものがあり、それを多方面から取り上げる事は限られたスペース
では不可能である。そこで、不肖猫丸は彼の業績を一点に絞って偲びたい。それは
「ニューヨーク・フィルとブーレーズ」。


「指揮者ブーレーズ」の業績は、CD時代になってDGに遺した大量の録音の印象が今日では
どうしても目立つ。しかし私は断言したい。「指揮者ブーレーズの本当の凄さはニューヨーク・
フィルとの共演盤にあり!」。彼がバーンスタインの後任として1971年にニューヨーク・フィルの
指揮者に就任した時の周囲の「驚き」を想像するのは容易い。マズアの時もそうだが、
このオケはこういう「アレ!?」という戸惑いを呼び起こす人選をする。
彼は保守的なニューヨークの聴衆にはウケがイマイチだったようで(近現代の作品をとりあげ
すぎたらしい)、1977年までの短期政権に終わってしまうのだが、その間に遺された数々の
録音はとにかく超弩級の名盤ばかりである。「火の鳥」「ペトルーシュカ」「ダフニスとクロエ」
「中国の不思議な役人」「ルーセルの交響曲第3番」・・・、やや変わり種としては「水上の音楽」
や「王宮の花火の音楽」。とにかく「本気」を出した時のニューヨーク・フィルの凄さを強烈に
印象づける鮮烈な名演ばかりだ。勢いはあるが粗い演奏の多いバーンスタイン時代のこの
オケとは見違えるような締まった演奏ぶりに、ブーレーズが相当「鍛えた」事が窺える。


そして今回の一枚は、この名コンビの、いや指揮者ブーレーズのベスト録音の一つと
不肖猫丸が確信する逸品である。冒頭の「ラ・ペリのファンファーレ」にまず度肝を抜かれる。
NYPの金管の名手たちの奏でる、惚れ惚れとする程の輝かしいファンファーレ!当時CBSが
力を入れていた4チャンネル録音の、良い意味で「人工的」な音づくりも演奏にピッタリマッチ
している。続く「ラ・ペリ」の本編?もハッとする程の繊細かつ明瞭な演奏で、曖昧さの全く無い
磨き抜かれた響きに、このコンビの底力を思い知らされる。


そして「三角帽子」。これがまた凄演! 「スペイン臭ムンムン」という演奏で無いのは予想通り
だが、「クール過ぎて砂を噛むような味気ない演奏」では無いのがサスガである。元々この
「三角帽子」はディアギレフのロシア・バレエ団のために生まれ、舞台や衣装のデザインを
パブロ・ピカソが担当した作品。そういう、この作品の「生い立ち」をイヤでも思い出させる名演
である。「クールで理性的な響きと、スペインらしい熱狂を両立させる」という、この曲の
「離れ業」とも言える境地を最高の形で提示してくれるこの録音があまり知られていないのは
惜しい。


個人的に狂喜乱舞なのが、ファリャの隠れ傑作「ハープシコード協奏曲」をこの名コンビが
とりあげてくれた事だ。これはブーレーズのリクエストだったのだろうか?
今や伝説の名奏者、ワンダ・ランドフスカの委嘱によって書かれた作品で、いかにもファリャ
らしいストイックな書法と、どことなくロドリーゴの「アランフェス協奏曲」を連想させる、乾いた
スペイン情緒と、飄々として一種の「脱力系」と呼びたい味わいが同居した名作である
(ただ、ランドフスカはあまりこの曲が気に入らなかったらしく、初演はしたものの、後は全然
弾かなかったという笑えるエピソードもある)。ソリストのキプニス共々、これまた明晰で
冴え渡った名演を聴かせてくれる。


DGとの一連の録音では「普通の大指揮者」になってしまった?感のあるブーレーズ。
個人的にはニューヨーク・フィル時代を含めたCBSへの、あたかも聴き手を挑発するような
「尖った」録音が好きである。既に存在感が薄くなりつつあるCBSへの録音が、今後ますます
忘れ去られてしまうのだとしたら残念だ。ぜひこの機会に多くの方に1960~70年代の
「攻めてるブーレーズ」を再度賞味の上、この偉大な音楽家を偲んで頂きたい。