★猫丸しりいず第274回


◎ブルックナー:交響曲第7番
クルト・マズア指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
(APEX 2564659422)


◎ガーシュウィン:キューバ序曲、「ポーギーとべス」組曲 他
クルト・マズア指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(国内キング KICC3569)
クルト・マズアが昨年(2015年)末に死去した。享年88。
ドイツARDテレビのニュースはこの訃報をトップニュースとして伝えていて、
この巨匠のドイツにおける存在感の大きさを強く感じさせた。


読売日本響の名誉指揮者も務め、日本とも縁が深かった人にも関わらず、
マズアは一般的な意味での「人気」が高かった人とは言い難い。しかし、
当「猫丸しりいず」の記念すべき?第1回を飾ったのは他でもないマズア指揮
のブルッフの「交響曲全集」であり、彼の訃報に接して「猫丸」がマズアの功績の
総括をしない、というのは、まさに「あり得ない」話である。


マズアという指揮者は、その音楽家としての業績よりも「無血でドイツ統一が
成し遂げられた事に関する功労者の一人」として讃えられる事が多く、この度の
訃報についてもその点は強く感じた。彼は1989年にライプツィヒで民主化を要求
する市民のデモに弾圧の姿勢を示した当時の東ドイツ政府当局に対し、
武力行使を避け、平和的解決を求めるメッセージを発し、それが奏功してあの
ベルリンの壁崩壊に繋がる東西ドイツの平和的な統一が達成されたという評価
が今日では一般的だ。ただ、このマズアの行動は今でこそ「偉業」という見方が
定着しているが、当時は毀誉褒貶相半ばだったような記憶が私にはある。


マズアの経歴の中で非常にユニークなのは、ライプツィヒとニューヨークという
対照的な都市の名門オケを長期に亘って務めあげた点。何と言っても1991年に
メータの後任としてニューヨーク・フィルの音楽監督に就任したのには驚いた。
しかし彼は、誰がやっても難しいこのポストを十年以上に亘って無難に勤め上げ、
テルデックを中心に多くの録音を遺した。ただ、あまりマズアの熱心な聴き手では
無かった私は、このコンビの演奏にあまり積極的には接してこなかった。


マズアの訃報に接し、彼の演奏を改めて色々聴いてみた。そして、正直言って、
マズアの事を見直した。やはりこの人、名指揮者であった。
今回とりあげたブルックナーとガーシュウィン。オケと曲目の組み合わせが
「逆向き」なのがポイントである。摩天楼のブルックナーと東独のガーシュウィン
・・・。だが、マズアはオケに決して無理をさせずに各々の持ち味を生かしながら、
しかもスタンダードな名演をやらせているのである。中々老獪だ。
ブルックナー「7番」は確か1991年のニューヨーク・フィルへの就任の「お披露目」
コンサートのライヴだったと思うが、オケの機能美を活かしながらも浮薄になる事< /div>
無く、ドッシリとした「安心して聴けるブルックナー」になっているのに感心する。
このコンサートの評判が非常に良く、彼のニューヨークでの「長期安定政権」の
礎となったという話を聞いた事があるが、それが頷ける秀演だ。


一方のガーシュウィンは1974年の録音。「キューバ序曲」の意外なノリの良さに
驚いてしまう。「ポーギーとべス組曲」はロバート・ラッセル・ベネットによる
「交響的絵画」とは別の、ガーシュウィン自身が1936年に作ったヴァージョンで
演奏されているが、これまた中々の名演。アメリカのオケのような乾いた機能美、
明快さは無い代わりに、何とも言えないまろやかで温かい味わいが心地良い。

 
他にも色々マズアの録音を聴いての総合的な印象は、前述のブルックナーに
通ずる「安心して聴ける、平均点の高い秀演が多い」という事。際立った特色は
薄いが、曲自体の「うまみ」を無理なく引き出し、物足りなさを感じさせない。
ただ、その点が彼の一般的な人気が盛り上がらずじまいになってしまった一因
でもあるのだろうが・・・。


ともあれマズアさん。激動の時代を生き抜き、それぞれのポジションでキッチリ
成果を遺した人生でしたね。そして何より「ブルッフの交響曲」を発掘し、
世の中に広めた功績は「猫丸賞」を進呈したい大偉業です。
本当にお疲れ様でした。

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