★猫丸しりいず第272回
◎モーツァルト:歌劇「魔笛」
サー・ゲオルク・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
タルヴェラ、フィッシャー=ディースカウ、プライ、ドイテコム、バロウズ他
(国内ESOTERIC ESSG/D 90109~17 ※9枚組 SACDハイブリッド)
かなり昔、当「猫丸」で「フィガロの結婚」をとり上げた際、自分はモーツァルト
のオペラの中では「魔笛が断然好き」と宣言した事があった。


「魔笛」は様々な意味で凄い作品である。「フィガロ」や「ドン・ジョヴァンニ」や
「後宮からの逃走」等の作品には、他の作曲家による「同系列」のオペラがそこそこ
存在するが、「魔笛」はあまりに個性的で、「同系列」を他の人が作る事はほぼ
不可能。「モーツァルト専売」と呼びたい奇跡の名作だ。


私が「魔笛」に対して「凄い」と感ずるポイントが4つある。


第1は、これがモーツァルト死の年の作品である事。9月30日に初演され、その
わずか2か月強のちに彼は亡くなる。貧乏のどん底、体調の悪化(丁度あの「灰色の
服の男」の事件があった時期と「魔笛」の作曲の時期は重なっている)という厳しすぎる
環境下にも関わらず、筆の鈍りとかスランプとかを全く感じさせず、短期間でこんな
完璧な作品を(しかも他の作品と同時進行で)作ってしまう。まさに「異常なる天才」
モーツァルトの真骨頂。


第2は、ハチャメチャなストーリーの台本をこれだけ充実した作品に仕上げた事。
このオペラのストーリーの辻褄の合わなさはずっと謎とされ、「諸事情で途中で急遽
ストーリーを変えてしまったのでは」等々の色んな憶測を呼んでいる。しかし、「魔笛」
の音楽の素晴らしさは、筋書きの整合性の無さなどどうでもいいや、という心境に
至らせる。ちなみに片山杜秀さんが著書の中で「魔笛」という話は「勧善懲悪」では
無く「崩れた陰陽のバランスを均衡させる」物語なのだ、と述べておられたのが、
個人的には非常に印象に残っている。


第3は、恐ろしくシンプルなのに深遠という孤高の境地。
貴族相手のオペラでは無く、大衆がターゲットの歌芝居なのだからシンプルにする
必要もあったのだろう。しかし「魔笛」の凄い所はシンプルでありながら全く低俗に
陥らず、「深遠」とさえ言える境地に達している事。「私は鳥刺し」を筆頭に、まるで呼吸を
しているように自然でありながら、何度聴いても奥深さを失わないアリアの数々。
モーツァルト以外にこういう離れ業が出来る男がいるとは思われない。


第4は、脇役が面白すぎる事。
「魔笛」の登場人物は多いが、「出番」から言えばタミーノ、パパゲーノ、ザラストロの
3人の比率が非常に高く、その点ではあの「夜の女王」すら「チョイ役」である。
このオペラの良いところは、入れ代わり立ち代わり登場する脇役たちが皆いい味を
出していて、しかも要所を締める重要な役割を果たしている点。3人の侍女や
モノスタートスも面白いが、私が「魔笛」の中で最も好きな脇役は断然パパゲーナ
である。彼女の居ない「魔笛」など考えられない。このパパゲーナ、出番は少ないが
中々難役だ。「シンプルなのに深遠」の極致と言えるあの「パパパの二重唱」を
ピッタリ決めないと、エンディングが何とも締まらなくなってしまう。結構プレッシャー
のかかる役と思われる。それにしても、この「パパパの二重唱」、まさに奇跡の名曲
と言う他無い。


さて「魔笛」の数々の名盤の中で、私が最も親しんでいるのがショルティの1969年盤。
高校生の時に近所の友人宅にたまたまこのレコードがあり、それで初めてこの曲の
全貌を知った・・という個人的懐かしさもあるが、とにかくキャストが粒ぞろいで芸達者。
加えて指揮もオケも録音も素晴らしい。当時のDECCAの総力を注いだ名録音で、
これだけのメンバーを揃えて手間暇かけてオペラの全曲盤が作れたという、音楽ソフト
産業の古き良き黄金期を偲ばせる逸品。ちなみに今回ご紹介は2014年末に発売の
あのESOTERICの「5グレイトオペラズ」に収録のものだが、歌手たちの声がクッキリと
鮮やかで、オケの音色や雷鳴などの音響効果もよりグレードアップされている。
発売から日が経っているのでとっくに入手困難と思われている方もおられるだろうが、
実はまだ新品での入手が可能である。確かに安くは無い。選曲も一見一貫性が無い
(ように思える)。しかし、カップリングされたクーベリックの「魔弾の射手」、セラフィン
の「トロヴァトーレ」、カラヤンの「カヴァレリア」と「道化師」のいずれもが「魔笛」同様に
素晴らしく、この頃の歌手たちの層の厚さを実感させる。


是非ご一聴をおススメしたいこの名BOX、店頭在庫限りなのでお問い合わせはどうか
お早めに! 2015年もご愛顧ありがとうございました。来たる2016年もよろしくお願い
申し上げます!

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