★猫丸しりいず第270回
◎ソーゲ:組曲「パリの風景」
ミシェル・プラッソン指揮 トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団
コットゥネ(Sax)
(国内EMI TOCE11130 ※廃盤)

世界を震撼させた今年(2015年)11月13日のパリのテロ事件。


昔から幾多の旅人や芸術家たちを惹きつけてやまない大都市パリ。
フランスという国が過激武装組織の掃討に積極的な事もあり、繰り返しテロの標的に
なってしまった訳だが、その後のパリの人々の「不安」と「不屈」のせめぎ合いは
ニュースで見ていても、身につまされるものがあった。東京もかつて「地下鉄
サリン事件」という前代未聞の凶悪テロに見舞われた経験がある。1995年3月の
事件発生当時、私は茅場町に職場があったのだが、あの日都心を襲った大混乱
の情景と、その後数日間漂った何とも言えない不安感を未だ忘れる事は出来ない。


今回は、不屈の、そして魅力に溢れた街パリに当「猫丸」からエールを送るべく、
パリを題材にした作品を一丁。


パリにゆかりの音楽作品と言えば、モーツァルトの「交響曲第31番」をはじめ、様々存在
するのだが、今回とりあげるのはアンリ・ソーゲ(1901~1989)の無名の傑作。ソーゲは
ボルドーに生まれたが、パリで学び、パリに暮らし、パリを愛し、パリに没した作曲家。
ミヨーに気に入られてパリに招待され、ケクランに作曲を学び、サティとも親交を結んで
その強い影響を受けた作曲家。いわば「サティの子分」みたいなポジションの人である。
そしてこのソーゲ、大の「猫好き」であったらしい。実際、私も彼の作品を収録したCD
のジャケット写真で、嬉しそうに猫を抱いている彼の写真を目にした記憶がある。


彼はこんなコトバを遺したそうだ。「動物達がそばにいるだけで我々に優しさや美しさを
感じさせてくれるように、音楽も決して贅沢品や手の届かない理想等ではなく、もっと
生活そのものを表し、手軽に我々が抱き楽しむものである」。彼の作品を聴くと、まさに
彼がこういうスタンスで曲作りに臨んだ事が実感できる。
「パリの風景」は1950年の「パリ創立2000年」を記念した作品で、ソーゲは作曲にあたって
「パリの何処をネタにするか」を自ら歩いてセレクトしたのだそうだ。結果「オペラ座広場」
「凱旋門」「ホテルリッツ」「モンマルトル」等、観光客にもお馴染みのスポットも色々
含まれている。しかし、ソーゲの作品には「俺ァ華の都パリにやって来たぜ!」みたいな
「お上りさん的コーフン」は微塵も無く、如何にも「日常」というか「何気ない、いつものパリ」
という雰囲気が満ちているのが独特の心地良さを生み出している。冒頭のユッタリとした
優雅なメロディを聴くと、自然に「セーヌ河の流れとエッフェル塔」みたいな、まさしく
「パリの風景」が脳裏に浮かぶ方は多いのではないだろうか。」


このプラッソン盤にカップリングされているバレエ「旅芸人」や、マルコポーロ・レーベルから
出ている4曲の交響曲にも感じられるが、ソーゲは他の作曲家(例えばロマン派の人々)
だったらもっと壮大に起伏をつけて盛り上げるだろう・・・という素材でも、比較的淡々
と音楽を進める。そこには独特の「盆栽」みたいな魅力が生じている。引用したコトバの
ように「大袈裟」を嫌った彼の美学が滲み出ているように思える。


パリを愛する人にも、まだ行った事の無い人にも、是非ご一聴頂きたい粋な名品「パリの風景」。
しかし、残念ながらこのプラッソン盤は現在廃盤。私の知る限り、これ以外の録音も無い
様子で、こんな名作なのに信じられない冷遇ぶりである。NAXOSやシャンドスあたりから
優秀な新録音が登場する事を熱望したい。


最後にパリの街、パリの皆さんにもう一度エールを送りたい。そして、多様多彩な文化を
上手く取り入れ共存させて来たパリという街の良さを、これからも失わないでもらいたいのだ。