★猫丸しりいず第267回
◎マイアベーア:「預言者」~戴冠式行進曲
 ガーデ:ジェラシー
 ボロディン:「イーゴリ公」序曲
 イベール:寄港地  他
ルネ・レイボヴィッツ指揮 パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団
                 ローマ・フィルハーモニー管弦楽団
                 RCAイタリア交響楽団 他
(SCRIBENDUM SC510 ※13枚組「レイボヴィッツの芸術」)
前回に続き、謎の巨匠レイボヴィッツ。


これまで250回以上続けてきた当「猫丸」において、同じアイテムに関して2回を
割く、というのは実はこのBOXが初めてである。それほどまでに、この13枚組が
私に与えたインパクトの大きさは近年比類の無いものであった。


このBOXに含まれた音源の中で、旧知の名盤のムソルグスキーやベートーヴェン
を更に上回る感銘を受けた音源がある。それは多数の「小曲」たち。
レイボヴィッツが「リーダーズダイジェスト」通販レコードのために、これほど多くの
小曲、それも「通俗名曲」と軽くあしらわれがちな作品を多々録音していたとは
恥ずかしながら知らなかった。しかも中には彼自らアレンジした「グリーンスリー
ヴス」や「ロンドンデリーの歌」とか、およそ「十二音音楽の使徒」というコワモテの
イメージからは対極とも思える曲目も少なからず含まれているのである。


これらの小品の録音にレイボヴィッツが携わる事になった経緯は不明である。
彼自身の提案か、はたまた一種の「頼まれ仕事」だったのか。でも、そんな事は
聴き始めればどうでも良くなる。彼がこれら「小品」への取り組む姿勢の何と
「真剣」で「真摯」な事だろうか。例えば、ガーデの「ジェラシー」。北欧の生んだ
タンゴの名曲として知られるこの曲を、ここまで体を張って強靭に表現した演奏に
私はこれまで接した事は無かった。思えば、巨匠と呼ばれるにふさわしい演奏家は
「小品」にも決して手を抜かない。カラヤン然り、クナッパーツブッシュ然りである。
クナッパーツブッシュの小曲集に対して、昔宇野功芳さんが「命を懸けた遊び」という
大名言を捧げていたが、このレイボヴィッツの小品の演奏を聴いて、私は思わず
この賛辞を思い出した。


演奏しているオケは聴きなれない怪しげな団体が多く、演奏自体は玉石混交と
言えなくもないが、とにかく演奏に対する彼の真剣な姿勢はまさに一貫している。
しかも、怪しいながらもオケも中々いい味出してる団体が多い。中でも「パリ・
コンセール・サンフォニーク協会管」。このオケ、正体はパリ音楽院管という説が
有力なようだ。当時は演奏者とレコード会社の専属契約が非常に厳しく、契約外の
レーベルへの録音に当たっては「本名」を名乗れない、というケースが色々あった。
このオケ、古き良き「おフランス」の楽団の香りが横溢していて素晴らしい。
「魔法使いの弟子」「ボレロ」といったフランス名曲はもちろん、「イーゴリ公序曲」の
ホルン・ソロの思わず「うわぁ」とのけぞりそうな激ヴィブラートなど、今では聴けない
味わいである。「牧神の午後への前奏曲」がこのオケで無くロンドンの楽団の演奏
なのが非常に惜しい。「戴冠式行進曲」やシャブリエの「スペイン」「楽しい行進曲」、
イベールの「寄港地」等を担当しているイタリアのオケ(ステレオ初期のRCA盤で
よく見かける名前だが、RCAがイタリアで録音する際のスタジオ・オケだろうか)の
カラッと吹っ切れた演奏ぶりも清々しい。


ともあれ、これらの小品の大名演に接して、レイボヴィッツという男が真の巨匠
であるという確信を得た事は、私にとっては大収穫だった。「リーダーズ・ダイジェスト」
への一連の録音は彼の40歳代後半の仕事だが、それから約10年後、彼は還暦にも
届かない若さで亡くなってしまう。同世代の指揮者たちに長寿を全うし、デジタル録音
時代まで活躍を続けた人が多い事を思うと、本当に残念としか言いようが無い。
と同時に、もしも「リーダイ」誌用の録音が無かったら、彼の偉大さは全く知られずに
終わってしまったかもしれないと思うと、改めてこの雑誌には大感謝である。


どんな仕事にも手抜きなし全力投球という、仕事人の鑑と呼びたいその姿勢。
レイボヴィッツ! 最高です!!