★猫丸しりいず第266回


◎シューマン:交響曲第3番「ライン」・マンフレッド序曲
 リスト:メフィスト・ワルツ第1番 他
ルネ・レイボヴィッツ指揮 インターナショナル交響楽団 他
(SCRIBENDUM SC510 ※13枚組「レイボヴィッツの芸術」)
とてつもない巨匠。
なのに、謎の男。ルネ・レイボヴィッツ(1913~1972)。


いわゆるメジャーレーベルへの録音がほとんど無いにもかかわらず、
没後40年以上経った今でも彼の卓越した演奏を賞味出来るのは、
ある意味奇蹟的ですらある。この点において、私はある雑誌に感謝
せずには居られない。
その雑誌の名は「リーダーズ・ダイジェスト」。と言っても、今30代以下の
若い方々は恐らくこの雑誌の事をご存じないだろうとは思うが、私が
生まれてから小学生位の1960~1970年代にかけて全盛を誇った、
アメリカ発祥の教養雑誌である。


様々な言語で出版され、近年でも東欧、東南アジア、中国等で拡大を
続けているこの雑誌、終戦直後の1946年に日本版が誕生したが、
惜しくも1986年には休刊に追い込まれてしまったらしい。私が小中学生
の頃のこの雑誌の一般家庭への普及度は中々高く、友人宅に遊びに
いくと結構目にしたものである。そして、中学生の時にクラシック好きの
友人宅の居間に転がっているのを発見したのが、この「リーダーズ・
ダイジェスト」のロゴが入った謎の「ベートーヴェン九大交響曲集」の
レコード。


水色の箱にベートーヴェンの肖像がデッカク描かれたそのレコード。
「九大交響曲って・・ 9曲で全曲じゃないか」と思わず突っ込みたくなったが、
何はともあれ誰が指揮しているのかが気になった。見てみると
「レイボヴィッツ? 誰だそりゃ」。まだカラヤン、ベーム、オーマンディと
いった大メジャー指揮者しか知らなかった当時のウブ(笑)な私には、
全く初耳だった。まあ私も最初からシェルヘンとかロスバウトとかに
コーフンしていた訳では無く、その後の様々な偶然による出会い(この
レイボヴィッツもまさにそうだが)が今日の不肖猫丸を形成してしまった
のである。私は最早手遅れだが、良い子は絶対マネをしないように。


「リーダーズ・ダイジェスト」は会員頒布用に通信販売のレコードを色々
手掛けていた事を後で知ったが、このベートーヴェンもその一つだったのだ。
この手の「通販用」ソフトは、通常既存のメジャーレーベルの音源の
ライセンス使用がほとんどだが、この雑誌は果敢にも自前で制作を行なって
いたのである。ともあれ、レコードの発見時に友人に「お前、これ聴いた事
あるか」と訊くと「無い」と言う。長期に亘って居間の片隅に「放置プレイ」
されていたものだったらしい。「リーダーズ・ダイジェスト印」のレコードは
決して少なくない量が流通したようだが、恐らくは同様に放置されていた
代物が多かっ たと想像される。


どんなヘッポコ盤かと聴いてみると驚き! 音質も演奏も実に良い。
「カッコイイ演奏だなあ」という第一印象は未だに鮮明である。
しかし、このレイボヴィッツという謎の男の正体を知ったのは、その出会いから
随分後の事だった。彼の「本業」はシェーンベルク&ウェーベルン門下の
作曲家で、ワルシャワに生まれ(ラトヴィアのリガ生まれという文献に接した
事もあるが真偽不明)、作曲の他教育、評論、演奏等々を通じ、十二音技法
の紹介に尽力した人。一方、「リーダーズ・ダイジェスト」はレコードを出すに
当たり、中途半端な事はやらじ、と制作を米RCAに委託。当時RCAは
DECCAと提携していたので、ヨーロッパでの録音は実態的にはDECCAが
行ない、RCAのゲルハルトやDECCAのウィルキンソン等の凄いメンバーが
制作に関わり(音質が良くて当然であ る)、ゲルハルトとの「人脈」の中で
レイボヴィッツが指揮者として起用される事となったようだ。そして、この
ベートーヴェンを筆頭に、色々な録音が遺される事と相成った。


最近この一連のレイボヴィッツの「リーダイ」誌レコード向けの録音を集成
したBOXがSCRIBENDUMから登場。爆笑の大問題作「禿山の一夜」に
始まり、上述の「ベートーヴェン九大交響曲」でシメる、という充実の内容で
今回(私は)初めて接した音源も多い。「初顔合わせ」の音源の中で妙に
印象に残ったのが「ライン」。「インターナショナル交響楽団」という「西船橋の
国際パブ」級に怪しさ炸裂の謎の楽団の演奏だが、日頃親しんでいる
サヴァリッシュやクーベリック等のふっくらした響きの演奏に比べ、あたかも
「X線写真」のような一種異様な鮮明さ。有名な「禿山」の冒頭もそんな感じ
だが、1960年代初頭という録音年代を考えると中々「未来的」な感すらあって
興味深い。しかし、この「ライン」を更に上回る衝撃?を受けた音源が他にも
色々・・。それは次回のお楽しみ・・・。