★猫丸しりいず第265回


◎オネゲル:劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」
セルジュ・ボド指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 他
(国内スプラフォン COCO70994~5 2枚組)
1950~1970年代にかけてのチェコ・フィルが非常に好きである。


演奏の素晴らしさはもちろんだが、この時代の録音に登場する多彩な
指揮者たちと、意外なほどに幅広いレパートリーに惹かれるのだ。
同時代の他の東欧諸国のオケに、主に自国(或いは「東側」)の指揮者を
起用して、自国のレパートリーを中心とした音源が多いのに比べ、その
多彩さは際立っている。これが楽団やスプラフォンというレーベルの
ポリシーだったのか、チェコスロヴァキア(当時)という国のポリシーだった
のかはわからないが。


ただ、残念な事にそれらの多彩な音源は、今日入手が容易なものと困難
なものの両極端に分かれてしまっている。そんな中で「売れ筋」からは
距離を置いていると思えるにも関わらず、意外な程に健闘しているのが
フランスの名匠セルジュ・ボド(1927~)によるオネゲル作品の録音。
1960年代前半の「交響曲全集」から、1985年の「ダビデ王」に至るまで、
長期に亘って良好な関係を保ち、名演を残したこのコンビだが、中でも
「金字塔」と言える大名盤が「火刑台上のジャンヌ・ダルク」である。


20世紀に生まれた大規模な声楽作品の中でも屈指の傑作ながら、
中々上演、録音の機会に恵まれないこの作品。1935年に完成された後、
第2次大戦の最中の1940年前後にかけて、ザッヒャー、フレスティエ、
ミュンシュ等の巨匠たちによって次々ととり上げられた。ボドは、この曲の
フランス初演を指揮した巨匠ルイ・フレスティエの弟子だそうだが、彼が
1974年にプラハで録音した「ジャンヌ」は「これぞ決定盤!」という輝きを
今も全く失っていない。語りや声楽陣の充実ぶりもさる事ながら、チェコ・
フィルの一種「色っぽい」響きが実に魅力的なのである。


75分に亘る全曲を通して、オケが作品への凄い共感ぶりを見せる。
大詰めの「炎の中のジャンヌ・ダルク」の場面における演奏者がまさに
一丸となっての鬼気迫るド迫力! そして随所に現れる管楽器の何とも
魅力的な響き! 「この曲はこの1枚あれば充分」と思わせるほどの名盤
がチェコ・フィルの演奏から生み出された事には、このオケの底力を改めて
痛感させられる。それにしても、セルジュ・ボドという指揮者、実力の割に
ずっと地味な存在なのが何とも惜しい。今回ご紹介の盤は、「ジャンヌ」に
加え、前述の「ダビデ王」がカップリングされての2枚組となっているが、
この「ダビデ王」も大名演! 価格も手頃で、まさにおススメの逸品である。


この時期のチェコ・フィルの埋もれた名演は少なくなく、また残念ながら
今後商品化される事がほとんど期待出来ないものが多い。思いつくものを
挙げると、カルロ・ゼッキの「幻想交響曲」、オスカル・ダノンの「シェエラザード」
、ハンス・スワロフスキーの「ペレアスとメリザンド」(シェーンベルク)、
アントニオ・デ・アルメイダの「ラ・ぺリ」(デュカス)等々・・・。チェコ・フィルの
個性と独自の味わいに満ちた「裏名盤」たちが再度表舞台に立つ日は
もう来ないのか?・・・。