★猫丸しりいず第262回


◎ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲


イダ・ヘンデル(Vn)
パーヴォ・ベルグルンド指揮 ボーンマス交響楽団
(国内ワーナー WPCS50798~9)
1969年にスタートし、何と放映45年以上という驚異の長寿アニメ番組
「サザエさん」。


このアニメで番組開始以来ずっとサザエさんの母、磯野フネの役を
演じ続けていた麻生美代子さんが、遂にこの2015年9月いっぱいでフネ役
から引退する・・というニュースが先日流れた。麻生さんと言えば、私が子供
の頃に既にヴェテランの域に入る存在であった声優さんなので、それなりの
お歳である事は認識していたが、今回このニュースで麻生さんのお歳を知った
時はさすがに驚嘆した。1926年生まれの麻生さん、何と89歳の現役声優
だったのである。あの張りのある凛とした声と明瞭な語り。とても卒寿を迎え
ようとするお歳とは思えない。この番組のスタート以来、一貫して同じ役を
演じ続けているのはこれでサザエ役の加藤みどりさんと、タラオ役の貴家堂子さん
だけとなってしまったが、お二人とも確か70代半ばのはず・・(失礼!)。
貴家さんの声は、「ハクション大魔王」の「アクビ娘」とか「天才バカボン」の
「ハジメちゃん」の声で、私は小学生の頃から親しんでいるので、どれだけ長い
キャリアなのかが実感出来る。70代でも80代でも現役第一線! お見事と言う
他無い。


クラシック音楽の演奏家にも、ストコフスキーを筆頭に驚異的な年齢まで現役を
続ける人は少なくない。そんな中から今回は、麻生美代子さんと同世代の
イダ・ヘンデルをご紹介。今更「ご紹介」という程も無い、大ヴァイオリニストで
ありながら、謎の多いイダさん。何しろ正確な生年がよくわからない。
1928年生まれという説もあれば、1924年・・という説もあるが、いずれにしても
御年90歳前後で現役という驚異の存在である。ポーランド出身で、カール・
フレッシュやエネスコにも師事。もう「伝説の存在」となっているジネット・ヌヴーや
ヨハンナ・マルツィとほぼ同世代。そういう人が未だ現役というのは凄い。


イダさんは録音があまりお好きでは無いらしく、特定のレーベルに継続的に
商業録音をするという事をほとんどしていない。そのレコーディング・キャリアは
まさに「神出鬼没」という趣きで、テスタメントからいきなり登場したバッハの
「無伴奏」や2008年の来日時に東京で録音された小品集(RCA)等々、「オッと
まだいたのか、この人」(失礼)的な突然の出現でクラシック好きを驚かせ、また
その充実した内容で「イダさん、健在なり」と更に驚かす。


その「脈絡の無い」ラインナップの中で、私にとって一番印象深い名盤と言えば、
アンチェルと共演した「スペイン交響曲」と、今回ご紹介のウォルトンの協奏曲。
イダさんは英国籍らしく、エルガーやブリテン等の英国の作曲家の作品も盛んに
演奏しているが、1977年に録音されたウォルトンは、この曲のベスト演奏と言って
良い素晴らしい名演である。いかにもウォルトンらしい、切れ味鋭くカッコイイ
協奏曲だが、モタモタした演奏では曲の魅力が全く伝わってこない。イダさんの
演奏は素晴らしく俊敏で、迫力タップリのオーケストラ(ベルグルンドの名指揮!)
にも全く埋没する事無く、全編キリリと引き締まった演奏を聴かせてくれる。


麻生さんやイダさんのみならず、「演ずる」事を仕事にする人には高齢でも、
齢を感じさせない素晴らしい芸を見せる「超人」が少なくない。並みの自己管理
では出来ない事だろう。彼女たちから見れば私なんかまだ「洟垂れ小僧」も
良いところ。精進しなくっちゃ・・・・。