★猫丸しりいず第260回
◎ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番・第3番
ウィルヘルム・ケンプ(P)
パウル・ファン・ケンペン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(独DG 4357442 ※3枚組/ピアノ協奏曲全集)
◎チャイコフスキー:スラヴ行進曲
パウル・ファン・ケンペン指揮 アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団
(豪DECCA ELOQUENCE 4808536 ※2枚組/管弦楽曲集)
懲りずに続く、「忘れられた名匠救出しりいず」。
今回はオランダ出身のドイツの名指揮者、パウル・ファン・ケンペン(1893~
1955)。


この指揮者の事を最初に意識したのは、クラシック聴き始めの高校生の頃。
ちょうどその頃、フィリップスの廉価盤レコードでケンペンの録音がまとまって
出たのである。彼の事を当時全く知らなかった私は、「エ? ケンぺじゃないのか。
紛らわしいな」と妙な興味が彼に芽生えたが、その全てがモノラル録音だった事
もあり、実際にそれらを購入して聴くには至らなかった。その後もずっと彼の
名前は頭の中にずっと引っ掛かっていたのだが、実際に彼の音源を聴いたのは
それから随分経ってからだった。


ケンペンはオランダに生まれ、アムステルダム・コンセルトへボウ管のヴァイオリン
奏者として音楽家としてのキャリアをスタートさせ、1932年にはドイツ国籍を取得。
その翌年に指揮者デビューし、ドイツ国内で大活躍。しかしその後のナチの台頭、
第2次大戦が彼の人生に暗い影を落とす事になる。戦後彼は活動の拠点を
故国オランダに移すが、その実力にふさわしいポストに就く事は無かった。
大戦中もドイツにとどまり、ナチ政権に協力的な(と見なされる)活動を行なった事が
戦後に問題視されたらしい。そして、1955年に62歳というまだまだこれからという
齢で亡くなってしまう。結果、彼はステレオ録音を遺せず、その後のステレオ全盛
時代の中ではずっと冷遇される事となる。


彼の録音の中で、飛び切りの名演でしかも比較的入手しやすいと思われるのが、
今回ご紹介の2点。ケンプのベートーヴェンは一般的にはライトナーと共演した
ステレオ再録音の方が圧倒的に有名だが、1950年代初頭に録音されたこの旧録音
も未だ根強い人気を保っている。そのわけは何と言ってもケンペンの指揮の魅力。
5曲全てが素晴らしいが、「1番」「3番」「皇帝」がまさに最高である。録音当時は
まだフルトヴェングラー存命の時代だったわけだが、そのまさに「ドイツ!」という
趣きの響きのオケから実に男性的、筋肉質、雄渾で「カッコイイ」演奏を引き出した
ケンペンの指揮は秀逸。彼が如何に傑出した能力の持ち主だったか、この1点
だけでも充分にわかる。


もう1点は1951年に録音されたチャイコフスキー管弦楽曲集。交響曲の「5番」「6番」
をメインに「イタリア奇想曲」「1812年」「ロメオとジュリエット」等が収められている。
「5番」は終楽章に大胆不敵なカットがあったり、いきなりシンバルが登場したり・・と
「時代」を感じされる部分もあるが、前述のベートーヴェン同様、まさに「男臭い」
豪演が並んでおり、聴きごたえ充分。そしてこのアルバムの最高の聴きものは
「オマケ」的にくっついている「スラヴ行進曲」。これがまた惚れ惚れする程に
「カッコイイ」演奏であり、軽く扱われがちなこの曲を正面突破でここまでキリリと
演奏出来るのか!と興奮させられる。


ケンペンにとっての最大の痛恨事は、戦後の冷遇以上にこれから円熟という齢で
亡くなってしまった事ではないか。ベームと同世代の人だけに、せめてあと10年
長生きして多くのステレオ録音を遺せたら、今日ここまで忘れられる事も無かった
のではと思うと残念である。でも人生は自らの思う通りには運ばず・・・・。

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