★猫丸しりいず第259回
◎メシアン:世の終わりのための四重奏曲
 タッシ
(国内SONYMUSIC SICC1830 ※限定盤)
クラシック音楽作品の楽器編成、中でも室内楽におけるそれには、「弦楽四重奏」
のような「定形型」もあれば、「何じゃこりゃ」と言いたくなるような「変形型」もある。


「変形型」の生まれる背景としては、委嘱作であったり、特定の奏者やアンサンブルに
よる演奏を前提とした作品であったり・・というケースもある。しかし中には「偶然」と
言うか、「その時の状況・条件が作品を生んだ」と言うべき楽曲もある。メシアンの
代表作である「世の終わりのための四重奏曲」は、「状況が生んだ名作」の代表格。
この曲は第2次大戦中の捕虜収容所の中で生まれた。
メシアンはこの大戦でドイツ軍の捕虜となり、ゲルリッツの捕虜収容所に収容された。
その中で1940年に作曲されたのがこの作品で、初演は翌1941年の初頭にこれまた
収容所の中で、捕虜たちを前に行なわれたのだと言う。
ヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ピアノという風変わりな編成は、たまたまその時
メシアンと一緒に収容されていた(捕虜の)演奏家たちがこれらの楽器の奏者だった
・・・という偶然から生じたものなのだった。「ヨハネ黙示録」に基づくこの曲は、以来
今日までメシアンの代表作として繰り返し演奏、録音されている。


まともな状態の楽器など無い苛烈な環境の中で作られた曲にもかかわらず、その
完成度の高さは凄く、「信仰」「鳥」「リズム」等々のメシアンらしい要素が、「偶然」から
生まれた編成を十全に生かした形で描き出されているのはさすがだ。
瞑想的な「イエズスの永遠性への讃歌」や、実にカッコイイ「7つのトランペットのための
狂乱の踊り」(プログレッシブ・ロックを先取りしているような曲である)が中でも印象に
残る。


この曲と切り離せないのが、まさにこの名作を極める事を目指して結成された「タッシ」。
1973年にピーター・ゼルキン、カヴァフィアン、シェリー、ストルツマンという気鋭の4人
が結成したアンサンブル。彼らがメシアン自身の監修、指導も受け、デビュー作と
して録音、発表したのが今回ご紹介の一枚である。1975年の録音だが、録音データを
見ると録音場所が千葉の柏市民会館とニューヨークのRCAスタジオ・・となっていて、
何だコレ、何かの間違いか?と一瞬思ってしまったのだが、最初のセッションは
彼らが武満徹の「カトレーン」の初演に伴い来日した際に、実際に柏で行われたのだ
と言う。メシアンと柏とニューヨーク。中々強烈な組み合わせだ。ちなみに「カトレーン」は
タッシの面々の演奏ぶりに惚れ込んだ武満が、彼らのために書いた作品。
捕虜収容所から生まれた「偶然」の編成が、名演奏家と大作曲家たちによって「必然」
へと高められていく過程を見るようで、中々面白い。
ちなみに「タッシ」とはチベット語で「幸福」という意味。このネーミングがいかにも
1970年代&「ヒッピー」な感じ横溢で、時代を感じる。


今回ご紹介の盤は、今年(2015年)の4月新譜だが、限定盤なのでご注意。
このところの「新譜」はほとんどが事実上の「初回プレス限定」状態に陥っており、
油断するとすぐに入手困難になってしまう。ずっと続く厳しい経済環境を思えば仕方の
無い事とは思うが、かつての音楽ソフト産業全盛の時代を知る一人としては何だか
わびしい・・・・。