★猫丸しりいず第257回


◎レーヴェンスキョルド:ラ・シルフィード
オレ・シュミット指揮 コペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団
(海外EMI 9676942 ※2枚組 メインはプレヴィンの「くるみ割り人形」)
「有名なバレエ」と「有名なバレエ音楽」は必ずしも一致しない。


「有名なバレエとその音楽」の関係は、おおよそ以下の3つのパターンに分類出来る
ように思う。


第1のパターンは、バレエの上演のみならず、その音楽も頻繁にコンサートで演奏
される作品。チャイコフスキーの「3大バレエ」あたりが代表例だろう。
第2のパターンは、バレエもその音楽も広く親しまれているが、音楽のみがコンサート
でとりあげられる機会があまり無い作品。ドリーブの「コッペリア」「シルヴィア」等が
頭に浮かぶ。
そして、第3のパターンは、バレエとしては非常に親しまれているにもかかわらず、
その音楽のみが単体でとりあげられるケースがほとんど無いもの。アダンの「ジゼル」
やミンクスの「ドン・キホーテ」あたりが代表的な例である。
この他にも元々バレエ音楽では無い作品を用いたバレエとか、既存の曲をバレエ用
にアレンジした作品(「パリの喜び」とか)もあるが、そこまで踏み込んでしまうとキリが
無くなるので今回は止めておく。


バレエ音楽の歴史の分岐点は「白鳥の湖」。この作品が当初大失敗だった事は有名
だが、その原因の一つが、それまでのバレエ音楽に比べてあまりに「雄弁」すぎる
音楽を演ずる側も見る側も持て余してしまった事だろう。実際、第3のパターンの
作品群は基本的に「踊るための音楽」という色彩が強く、音楽があまり出しゃばる事が
無い代わりに、踊り抜きで音楽のみを聴き続けるのはちょっと苦しい・・という印象を
拭う事が出来ない。「ジゼル」にしても、物語の起伏の大きい第1幕は音楽だけでも
結構楽しめるが、第2幕は少々キビシイものがある。そのあたりの事情が、「有名作
なのにコンサートでとりあげられる事はほとんど無い」という結果に結びついている
のであろう。


今回とりあげる作品は、バレエの世界では超有名作でありながら、「バレエ音楽」と
してはほとんど知られておらず、そのギャップが異常な程に大きい特異なポジション
の作品である。その名は「ラ・シルフィード」。


「エ? それってあのショパンのピアノ曲を編曲したやつでしょ?有名じゃないか」
というお声も聞こえてきそうだが、早トチリにご注意である。実際、この作品、

「レ・シルフィード」と非常に紛らわしく、事実混同されているケースも多い(なので、
店頭で「シルフィード」のCDやDVDはありますか?とお客様から訊かれた場合、
私は必ず「ショパンをアレンジしたものですか?それとも・・・」と確認するように
している)。1841年に初演された「ジゼル」よりも更に先輩の作品で、今日一般的に
上演されるロマンティック・バレエの中では「元祖&最古参」と言える偉大な作品
なのだそうだ。トウシューズを履いてつま先で立って踊る・・というスタイルを定着
させた「バレエの歴史の分岐点」でもあるこの作品、元々1832年にパリで上演され
、それを見たデンマークの著名な振付師ブルノンヴィルが地元での上演を熱望
するも、曲の著作権使用料が高額でそれが叶わなかったため、ノルウェー出身の
作曲家レーヴェンスキョルド(1815~1870)に新たな音楽の作曲を依頼し、1836年に
デンマーク王立バレエ団によって初演され大成功・・・という、中々複雑な経緯を持った
作品である。


この曲、前述の「分類」における立ち位置は典型的な「第3のパターン」なのだが、
音楽だけでも中々楽しめる佳作である。チャイコフスキーのような「ド派手絢爛」な
響きでは無く、もっと清楚でつつましやかではあるが、明快でリズミカルで爽やかな
印象の残る作品。レーヴェンスキョルドは作曲当時まだ20歳そこそこの若者だった
わけだが、大振付師ブルノンヴィルから作曲を委託されるという事は、かなり傑出
した才能の持ち主だったのだろう。「北欧の隠れ名作」としても聴かれる価値のある
この作品、幸いにも容易に入手出来る音源がある。ただ、その盤、メインの「くるみ
割り人形」のオマケみたいな形でこの曲が収められているので要注意なのだが。
デンマークEMIの音源だが、何と指揮がデンマークの名匠オレ・シュミットという
マニア感涙&狂喜乱舞の逸品である。ロンドン響を振ったニールセンの交響曲全集
が今に至るまで絶賛されているこの指揮者、何とジャズ・ピアニストとしてスタート
したという変わり種。このシュミットの指揮が実に素晴らしい。メリハリクッキリで
しなやかな演奏は曲の魅力を十二分に生かしており、この曲の貴重な録音が
シュミットによって遺された事には本当に感謝したいと思う。


「隠れ名曲」と「隠れ名匠」が一度に味わえる「一粒で二度美味しい」この名録音。
お問い合わせの際は、是非「ショパンじゃないシルフィード」とお尋ね下さい・・・。