★猫丸しりいず第256回


◎プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」~第3幕間奏曲
シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
(豪PHILIPS 4681482 ※廃盤)


◎プロコフィエフ:バレエ音楽「石の花」(抜粋)
シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
(国内LONDON POCL4585 ※廃盤)
猫丸名物「マイナー名匠救出しりいず」。
今回はシルヴィオ・ヴァルヴィーゾ(1924~2006)。

彼はこれまでにとり上げた名指揮者たちと比べても、「マイナー指数」が
極めて高い人だろう。ヴァルヴィーゾ、という名前を聞いてコーフンする人は
私を含めて関東地方全体でも4~5人しか居ないのでは(笑)・・・と思う程である。
イタリアンな名前ながら生粋のスイス人。しかもルガノとかのイタリア語圏では
無く、チューリヒの出身。

彼との「出会い」は例によって偶然であった。私がクラシック初心者であった
中学生の頃、1978年に彼はNHK響に客演し、モーツァルト40番、ドヴォルザーク
8番、「ダフニスとクロエ第2組曲」等々を演奏したのである。
それからしばらく経った1980年代前半に、彼がドレスデン・シュターツカペレの
オケを振った録音がPHILIPSから数点まとめて発売された。オペラの管弦楽曲集、
ワーグナー、ヴェルディ等々。そのどれもが素晴らしく、私はこの指揮者に俄然
興味が芽生えた。

彼はクレメンス・クラウスに指揮を学び、バーゼル、ベルリン、ストックホルム、
シュトゥットガルト等の歌劇場の指揮者を歴任した他、1970年代前半はバイロイト
音楽祭にも継続的に登場し、メトロポリタンやロンドンにも客演。まさにグローバル
な活躍をしたオペラの名匠と呼ぶべき名指揮者。彼の凄腕を見せつける逸品が、
「マノン・レスコー」の間奏曲。5分程の小品ながら、プッチーニらしい精妙な響きと
劇的な振幅が短時間に凝縮された中々の難曲である。この録音でヴァルヴィーゾ
が聴かせる、オケと一体化しているような「自由自在」な凄演ぶりには、まさに舌を
巻いてしまう。情感の高まるクライマックスに向けての凄い急加速! その指揮に
対し、一糸乱れず、しかもシルクのような美音を保ち続けるドレスデンのオケ!
まさに「プロの仕事」とはこれだと思わせる。そして盛り上がりの頂点で鳴らされる
怖~い和音。この和音の鳴らし方(弦と管のバランス)がこれまた絶妙の一言。
この間奏曲は人気作だけに録音も多く、私も色々な演奏を聴き比べたが、ここまで
の境地に達している演奏は他にも無かったし、これからも現れないような気がする。
このドレスデンとの「オペラ名曲集」は、他にも「時の踊り」「ノートルダム間奏曲」
などお馴染みの名曲が多く含まれているが、まさに名演揃い。この盤が現状
入手困難なのは残念の一言に尽きる。

コンサート指揮者としても並々ならぬ腕前を持っていたと思われるヴァルヴィーゾ
だが、活動の中心がオペラだった事もあり、遺された録音の大半はオペラである。
DECCAに録音した「ノルマ」「アルジェのイタリア女」「カヴァレリア・ルスティカーナ」
等々が代表盤と言えるか。そんな中で彼が珍しく遺した「オペラで無い」録音が
スイス・ロマンド管との「石の花」の抜粋版(1965年録音)。

プロコフィエフの9つのバレエ音楽の最後の作品で、お世辞にも有名とは言えない
「石の花」を録音する事になった経緯は不明だが、録音当時まだ初演から10年ちょっと
という「若い」作品をよく手中におさめて明快かつ聴き映えのする演奏に仕上げて
いるのはさすがだ。このコンビはその後1967年にはボロディンの第2交響曲等を
録音しており、DECCAがヴァルヴィーゾに(同じスイス人という事もあるのだろうが)
ポスト・アンセルメとしての期待をかけていた事が窺えるが、前述の通りその後も
彼はオペラ中心の活躍を続けたため、スイス・ロマンド管と継続的に録音をする
事にはならなかった。コンサート指揮者としても並々ならぬ腕を持っていたと思われる
彼の「オペラ以外」の曲目の録音が極めて限られた量になってしまったのは、
今となっては残念としか言いようがない。

オペラに対する「需要」に限りがある日本でヴァルヴィーゾが再評価される日が
来る事はほとんど期待出来ないが、こんな指揮者もいたんだなあと記憶の片隅に
でも留めて頂ければ幸いである。ネタの尽きない「マイナー名匠救出しりいず」は
まだまだ続きますヨ・・・・