★猫丸しりいず第254回
◎シャンカール:シタール協奏曲第1番・第2番、モーニング・ラヴ 他

ラヴィ・シャンカール(シタール)
アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団
ズービン・メータ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

メニューイン(Vn) ランパル(Fl)他
(海外EMI 5865552 2枚組)
前回に続き、インドがテーマ。ただ、今回は正真正銘の「インド」である。
ガンディーやネルーといった歴史的偉人は別にして、私が生まれて初めて意識した
インド人。それは誰あろう、プロレスラーのタイガー・ジェット・シンである。
今は亡き宮崎の祖父がプロレス好きで、よくテレビのプロレス中継を見ていた。
観戦のお供は白砂糖をぶっかけたトマト(笑/私もそうだが、南九州の男は甘いものも
酒も大好き)。当時は馬場、猪木らの「巨匠」が活躍した黄金時代だったが、私が
一発で気に入ったのが「インドの狂虎」シン。上田馬之助との迷コンビも最高で、
どこまでが「狂気」で、どこからが「本気」なのかよくわからない、あたかも「プロレス界
のヘルマン・シェルヘン」みたいな存在感が素晴らしかった。



そして私がシンの次に意識したインド人は、シタールの巨匠ラヴィ・シャンカール(1920~
2012)。今更ご説明不要とも思うが、ビートルズやフィリップ・グラス等々、ジャンルを
問わず多数のミュージシャンたちに影響を与えた超大物。クラシック音楽界の演奏家との
共演も多く、EMIやDGから多くの録音が発売されている今回ご紹介の2枚組は、
彼がEMIに遺した主要な録音を集めたもの。


メインはシャンカール自作の2曲の協奏曲。面白い作品ではあるが、ちょっと「よそ行き」
な感は無きにしもあらず。シタールとオーケストラが「対決」するという感じではなく、
「並進」というイメージ。以前に「猫丸」でとりあげた山田耕筰の「長唄交響曲」同様、
シタールの存在感がデカすぎて、オーケストラが「背景」という感じになってしまって
いるのだ。このアルバムでのキキモノは、この2曲の協奏曲よりもむしろ、ランパルや
メニューインとの共演。


アルバム冒頭の「モーニング・ラブ」。 いきなり時間を超越したようなシタールの響きで
一気にシャンカールの世界に引きずり込まれる。続いて登場するランパルのフルート 、
この登場の仕方が実に見事。シャンカールの世界と完全に一体化しており、名演奏家の
適応力はさすが、と感心してしまう。
メニューインも同様。2曲目の「ラーガ・ピロー」では、タブラやタンプーラといった打楽器陣が
まさにインド的な雰囲気を醸し出す中、シャンカールに対して一歩も引くことなくハイテンションな
猛演をやって見せる。特にエンディング近くの強烈さはもうトランス状態という領域!!。
いや驚きました。メニューインさん 。 もう何時間でもこのまま聴き続けていたいと思わせるほどである。
それにしても、シャンカールは余程の強烈なオーラと哲学を全身から放射する人だったのだろう。
共演者たちをこれ程本気にさせつつ、最終的には自分の世界の中に巻き込んでしまうのは、
まさにカリスマのなせる技。


この演奏は冷房の効いた快適な部屋で聴くよりも、扇風機が生ぬるい空気をかき回すだけ・・
みたいな部屋で汗だくになりながら聴くと、より「インドな気分」に浸れる事、請け合いである。
でも熱中症には注意しましょう・・・・
思うにあのタイガー・ジェット・シンも、個性派外国人レスラーひしめくあの時代において
際立って強烈なオーラと哲学のようなものを放っていた。それはインドという国の独自な文化に
育まれたモノであったのかも・・・。いやはや、インド人恐るべし!