★猫丸しりいず第251回


◎マニャール:交響曲第2番・第4番
トーマス・ザンデルリンク指揮 マルメ交響楽団
(BIS CD928 ※2枚組)


◎ウェーベルン:パッサカリア、管弦楽のための6つの小品、交響曲 他
ヘルベルト・ケーゲル指揮 ライプツィヒ放送交響楽団
(国内KING KICC3659)

 
今年は第2次大戦終結70周年という事で、例年にも増して「戦争」が話題に
のぼる事が多い。


戦争は無数の無辜の民の命を奪ってきたが、音楽家も無論例外ではない。
第1次大戦に従軍して命を落とした英国の作曲家、バターワースがマニア筋
では有名だが、戦場に赴いたわけでは無いにせよ、戦争のゆえにまだこれから
というキャリアを突然断ち切られてしまった不幸な音楽家もいる。
その代表はウェーベルン(1883~1945)。


彼は第2次大戦の終結後、ザルツブルクの郊外の娘の家に避難し、作曲活動
再開の機会を窺っていた。ところが娘婿が元ナチの親衛隊で、闇取引に
手を出していた(らしい)のが運の尽き。闇取引の摘発のために張り込んでいた
占領軍の米兵に彼は誤射され、61歳で不慮の死を遂げる。彼は新ウィーン楽派
の他の大家、シェーンベルクやベルクがまだロマン派の「残り香」漂う作品を
遺したのに比べ、より研ぎ澄まされた凝縮度の高い作品を遺し、後の作曲家
たちに多大な影響を与えた人だけに、こんな形で落命する事無く、もう10年、
15年と続けて活動出来ていたらその後の音楽史は変わっていたかもしれない。
まさ に「覆水盆に返らず」。音楽史上有数の痛恨事と思う。
ウェーベルンの作品のユニークすぎる名盤がケーゲル盤。この連載で繰り返し
述べているように、私は巷の「ケーゲル=猟奇的爆演指揮者」みたいなイメージ
は余りに一面的に思えて同調出来ないのだが、この1枚は紛れもない「爆演盤」
である。ウェーベルンという「爆演」の対極にあるような作曲家の作品をここまで
「沸騰」させてしまうとは・・・。怒りを叩きつけるような「パッサカリア」や「6つの小品」
には唖然とするばかり。「ウェーベルンってあまりに断片的で、何やってんだか
良くわからない」とお感じの方に特におススメの1枚である。


戦争が原因で無残な死を遂げた作曲家と言えば、もう一人、アルベリック・
マニャール(1865~1914)を挙げないわけにはいかない。4曲の交響曲や
ヴァイオリン・ソナタがフランス音楽好きにかろうじて知られているこの人。
第1次世界大戦が勃発した時、彼はフランス北部バロンの山荘に滞在していた。
彼は妻子を疎開させたが、自分自身は山荘に留まる。結果的にはこれが命取り
となってしまった。彼は山荘に侵入してきたドイツ兵たちと争いになり、銃を持って
抵抗。ドイツ兵2人を射殺したが、反撃にあって自らも銃弾を受け、更には山荘に
放火されて焼死してしまう。まるで「太陽にほえろの殉職刑事」級の壮絶な最期で、
彼は50歳にも満たず非業の死を遂げる。


マニャールはパリの裕福な家庭に生まれ、フランクやワーグナーに強い影響を
受けた・・という点で10歳先輩のショーソンとよく似ている。しかし、ある種のアブなさ、
「生臭さ」が漂う(そしてそれが魅力的な)ショーソンの音楽と、マニャールの音楽は
かなり趣が違う。マニャールの交響曲を聴くと、とにかく真面目一徹で構成はガッチリ
としており、対位法的な書法と言い、師匠と仰ぐフランクを更に上回る「厳格」な印象
を受ける。私はアンセルメ晩年の名盤「交響曲第3番」で、彼の作品に初めて接したが、
その独特な味わいに強い印象を受けた。彼の作品は決して「とっつきやすい」とは
言えないが、忘れられるには惜しい。フランクやショーソンが好きな方には特に
ご一聴をおススメする。代表的な録音であるプラッソン盤が現在入手困難な模様
なので、クルトの息子、トーマス・ザンデルリンクによるBIS盤をご紹介する事とした。


危険を承知で山荘に留まり、踏み込んだ侵略者に一歩も引かずに対峙した挙句、
命を落とした「一徹男」マニャール。そんな男が生み出した事が頷ける、一徹な作品
が再評価される事を強く望みたい。