★猫丸しりいず第250回


◎ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番・第5番「皇帝」
エミール・ギレリス(P)
レオポルド・ルートヴィヒ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
(TESTAMENT SBT1095)


◎チャイコフスキー:交響曲第5番
レオポルド・ルートヴィヒ指揮 ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団
(国内DENON COCQ84442)
オッテルローをとりあげた前回の結びで、「埋もれた名匠の救出とご紹介に
尽力する」と宣言したが、早速、そうそうこの人「救出」しなくちゃ・・・と脳裏に
浮かんだ名指揮者がいる。その人の名はレオポルド・ルートヴィヒ(1908~
1979)。


この名前を聞いて、「ああ、そんな人いたっけなあ」という感想を持てる方は
恐らくほとんど私と同年代以上のおぢさん世代だろう。典型的な「廉価盤の
指揮者」であり、昔私も彼がロンドン響を振った「新世界」のレコード等をよく
レコード屋の店頭で見かけた。そして、比較的入手しやすい音源のほとんど
が「協奏曲」の伴奏指揮者としてのもの・・・という点で、以前当猫丸で
とり上げた指揮者、アルチェオ・ガリエラと似た存在の人でもある。


彼はオッテルローと生没年がほぼ同じで「カラヤン・朝比奈世代」の人。
現チェコのモラヴィアに生まれ、歌劇場叩き上げでキャリアを築き、1951~
1970年の長期、ハンブルク歌劇場の音楽総監督として活躍した。録音の数は
「少ない」とは言えないが、前述のように「伴奏系」の音源ばかりが残り、
彼が「主役」の録音が永らく入手困難な状態が続いた事で、すっかり影の
薄い存在となってしまった。


その「伴奏系」音源でチェルカスキー&ベルリン・フィルと共演したチャイコフ
スキーの「ピアノ協奏曲第1番」(DG)と共に最もポピュラーな存在と思われるのが
1957年録音のギレリスとのベートーヴェン。何と言ってもギレリスの若々しく
しなやかな名演が印象に残る1枚だが、「堅牢」という感じのルートヴィヒの
サポートぶりも中々である。しかし、この1枚では「指揮者ルートヴィヒ」の真価を
知るには物足りない。欲求不満状態だった私に、あたかも干天の慈雨の如く
降り注いだのが2008年にコロムビアから発売された「オイロディスク・ヴィンテージ
コレクション」のシリーズ。この中にルートヴィヒ指揮の(しかも彼が「主役」の)
音源が何点か入っていたのである。まさに狂喜乱舞とはこの事であった。


手兵のハンブルクのオケを振った「チャイコフスキーの5番」や「ブラームスの
1番」を聴いて、即座に私の頭に浮かんだのは「粗にして野だが卑ではない」
というあの名言である。細部まで磨き抜かれ、透徹した演奏・・という感じとは
かなり違う(そういう演奏が「息苦しい」と感じる方には特におススメだ)。
思い切り「普段着」という趣きで、荒削りこの上ないのだが、「粗雑」とは
全く違う。口調はやや荒いが、その話芸にどんどん引き込まれてしまう噺家
さん・・・、そんな感じなのだ。オケを豪快に鳴らし、細部にこだわりすぎる事
無く勢いよく進めていくが、それでいて音楽の「核心」の部分は決して外さない。
まさに「現場叩き上げの名匠」ならではと言える、素晴らしい演奏だ。
ちなみに1960年、彼が50代前半の「働き盛り」の頃の録音である。
余談だがこの盤、同じオケをアメリカの指揮者トーマス・シャーマンが振った
「イタリア奇想曲」の名演がカップリングされており、まさにマニア感涙の
逸品である。


残念ながらこのシリーズ(他に「悲愴」やベートーヴェンの「第9」も出た)は
短期間で入手困難になり、名匠ルートヴィヒの再評価の狼煙をあげるには
至らなかった。一昨年にはEMIからローテンベルガーが主役を歌ったベルクの
「ルル」が復活し、ルートヴィヒ好きの溜飲を大いに下げたが、これまた短期間で
入手困難に・・・ この手の音源は「見つけたら即ゲット」が鉄則だ。
「埋もれた名匠 救出シリーズ」は今後もまだまだ続きます・・・・。