★猫丸しりいず第249回
 
◎ベルリオーズ:幻想交響曲

 ウィレム・ファン・オッテルロー指揮 シドニー交響楽団
(豪ABC 4765957 ※廃盤 「シドニー交響楽団創立75周年記念セット(5枚組)」)

 
◎フランク:交響詩「アイオリスの人々」・交響曲ニ短調

 ウィレム・ファン・オッテルロー指揮 アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団
(蘭PHILIPS 442296-2 2枚組)


私の「名演奏家との出会い」はつくづく偶然が多いと思う。
以前に「猫丸」でとりあげた、怪人指揮者シルヴェストリとの出会いはその典型例だが
(詳しくはhttp://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/945/)、オランダ出身の
不遇の名指揮者、ウィレム・ファン・オッテルロー(1907~1978)との出会いも、
シルヴェストリ同様、中学校の音楽室であった。


音楽室の教材用の棚に置いてあったレコードの中に、ビゼーの「カルメン&アルルの
女」組曲のグラモフォン盤を見つけた。演奏者を見ると「オッテルロー指揮 ハーグ・
レジデンティ管弦楽団」。誰?この人たち? グラモフォンってカラヤンとかベームだけ
じゃなくて、こんなマイナーな人(失礼)ともレコード作っているのか、とその時は思った。
聴かせてもらうと、これが中々小気味よい名演奏ではないか。私は俄然このオッテルロー
という指揮者に興味が湧き、レコード屋で彼の録音を捜索。見つけたのがフィリップスの
廉価盤で出ていたベルリン・フィルとの「幻想交響曲」。しかしライナーを見ると1951年の
古いモノラル録音とわかり、購入を断念。当時の私の可処分所得では、廉価盤とは
言えモノラル盤に手を出す余裕は無かった。モノラル時代の音源が宝の山と気付くのは
おぢさんになってからである。


高校生の頃には、このオッテルローという人がオランダの代表的な指揮者の一人である、
位の情報は得ていたが、ここで新たな疑問が発生。そういうポジションの名指揮者なのに
オランダの名門アムステルダム・コンセルトへボウ管との録音が全然見当たらない。
それどころか、最近(と言っても当時の1970年代だが)の録音もまるで見当たらない。
どうしてこんな事になっているのだろう?


1959年に名指揮者ベイヌムが還暦にもならない若さで急死し、コンセルトヘボウ管の
首席指揮者の座が空いた時、「後を継ぐのは俺しか居ない」とオッテルローが思った事は
想像に難くない。しかし、実際にはそうはならず主席の座に就いたのは、当時まだ30歳
そこそこの「若造」だったハイティンク。実績からいっても順当と思われたオッテルローが
なぜこのポストを射止められなかったのかについては様々な説、憶測があるようだ。
単に「楽員との相性が悪かったから」というものから、「ナチ政権下でのドイツでの演奏活動
が問題視されたから」というものまで・・・。ナチ政権下での活動が問題視されて戦後逆風に
晒されたオランダ出身の名指揮者と言えば、パウル・ファン・ケンペンが思い出されるが、
オッテルローも同じ境遇だったのか。


結局オランダで頂点を極める事の叶わなかった彼が晩年活躍の舞台とし、また、結果的に
最期の地ともなってしまったのはオーストラリアである。彼は1971~8年までシドニー響の
指揮者を勤め、十八番の「幻想交響曲」を筆頭に、「春の祭典」やベートーヴェンの交響曲等
様々な録音を遺したが、それらは豪州以外で日の目を見る機会はほとんど無く、今回
ご紹介の盤のように、オーケストラのアニヴァーサリーBOXの中で細々と出回るにすぎない
状態が続いている。誠に痛恨事だったのは、彼が1978年にメルボルンで自動車事故により
不慮の死を遂げてしまった事。これにより、彼がシドニー響と進めていたベートーヴェンの
「交響曲全集」は5曲で途絶してしまった。これが完成されていたら・・・。残念というほか無し。


そしてもう一点、ありがちな「フランク名曲集」の中に埋もれているのが、彼がコンセルトヘボウ管
を振った本当に貴重な録音。「貴重」というばかりでなく、これが中々名演である。事の運びに
よっては数多くの名録音を遺した事になったかもしれないこの顔合わせ。一体、この録音の時に
オッテルローの胸中にはどんな感情が渦巻いていたのだろうか。
四半世紀近い永きに亘って主席指揮者を勤めたハーグのオケとの録音は、それなりに復刻
されて日の目を見ているが、是非シドニー響との一連の録音も復活させてほしいと思う。


今更ながら思うのは、戦後から1970年代頃までに活躍した指揮者たちの多士済々ぶりと
、層の厚さである。結果、このオッテルローのように実力ある名匠ながら今日埋没してしまって
いる人が少なからず存在している。これからも「猫丸」は「埋もれた名匠」の「救出とご紹介」に
全力尽くして参ります!