★猫丸しりいず第247回


◎マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」

 
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ロンドン交響楽団 他
(英BBC CLASSICS BBCL4001 ※廃盤)



◎マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
(SCRIBENDUM SC511 ※5枚組「ホーレンシュタインの芸術」 2015年5月発売)
前回に続き、「ファウスト」の「神秘の合唱」に基づく名作。


実は前回に触れたシューマンの「ファウストからの情景」も、「神秘の合唱」で
結ばれているのだが、まあ一般的には、「ファウスト交響曲」と双璧の「神秘の
合唱」を使った名作と言えば、ご存じマーラーの「千人の交響曲」という事になろう。
この曲の第2部は「ファウスト」の終幕を素材として書かれている。この
荒唐無稽な怪作の素材になぜマーラーが「ファウスト」を用いたのかは、色んな
説があるようだが、私には正直言って良くわからない。


「滅びゆくものは、全て比喩にすぎず、及ばざりしところのものは、ここでは
出来事となり・・・」と続く「神秘の合唱」。日本語で書かれている筈なのに、まるで
意味がわからない・・という難解すぎるこの詞にマーラーはリストにも負けない
実にカッコイイ音楽を付けた。消え入りそうな静寂の中から浮かぶ「神秘の合唱」
が、最後の爆発的なクライマックスに昇りつめていくあの凄さは、実演で聴かないと
体感出来ないように思う。


この曲の実演に立ちはだかる大きな「壁」は、「経費」と「練習」ではないだろうか。
今日この曲を実演する際に、演奏者全員揃ってのリハーサルがどの位可能なのかは
知らないが、中々容易ではないだろうとは想像できる。


ここでこの曲の演奏史の上で絶対外せない男のご紹介。その人こそ、私の敬愛する
巨匠ヤッシャ・ホーレンシュタイン(1898~1973)である。キエフに生まれ、ウィーンで
学んだ彼はユダヤ系であったため、第2次大戦でナチが権力を握ると辛酸を舐める
事となった。戦後欧州の楽壇に復帰してからは、マーラーやブルックナー演奏の
「先駆者」として大きな存在感を放った。そんな彼が1959年に「千人」をロンドンの
ロイヤル・アルバート・ホールで演奏した際のライヴが、ご紹介の1枚である。
この「金喰い虫」の大曲が上演出来たのは、何とBBCが会計年度内に予算を消化
出来そうもないので、あえてカネのかかる「千人」をやってみるか・・と言う事情から
だそうで、何とも「大らか」?な話という他ないが、決定から本番まではわずか半年。
一体誰が指揮をするの?という難題の中、白羽の矢が立ったのが、早くからマーラー
をとり上げ、VOXに録音もしていたホーレンシュタインであった。


我らがホーレンシュタイン大先生の凄腕がここから全開する。彼にとっても「千人」の
演奏は初体験。しかも様々な制約から演奏者全員揃ってのリハーサルは1度も
行なう事が出来ず、半ばぶっつけ本番で行われた演奏会のライヴがこのBBC盤である。
これが凄い。凄すぎる。そんな「悪条件」のもとでの演奏とは信じられない位に
明晰な演奏。そして「神秘の合唱」によるエンディングのド迫力! 終演後の聴衆の
熱狂ぶりも凄い。この大名盤が現在廃盤で入手困難なのは残念の一言に尽きる。
音質も優秀なだけに、復活熱望の逸品である。


そのほとんどがマイナーレーベルへの録音で、結果流通が非常に不安定なものが
多いにも関わらず、彼が未だに根強い支持を保ち続けているのは、ある意味凄い。
そんな彼の貴重な録音の代表格ながら、レーベルの休眠で永らく入手困難だった
英ユニコーンレーベルへの録音を集めたBOXが最近発売されたのは目出度い出来事。
名演として名高いロンドン響とのマーラーの「3番」が含まれているのも嬉しいが、
もう入手は困難と思っていたストックホルム・フィルとの1966年のライヴのマーラー
「6番」の復活が個人的には誠にポイント高い。パイオニア精神と情熱を見事に
両立させ、決して恵まれたとは言えない条件下でもその記録をしっかり遺した
ホーレンシュタイン師匠! アナタはヤッパリ偉大です!

ディスクユニオン吉祥寺クラシック館

〒180-0004
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-24
小島ビル3F
tel : 0422-23-3532
fax : 0422-23-3530
mail: dkkcl@diskunion.co.jp
買取専用フリーダイヤル

0120-273-537

営業時間

11:00~20:00