★猫丸しりいず第246回


◎リスト:ファウスト交響曲
エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 他
(豪DECCA ELOQUENCE 4429992)
当「猫丸」のごく初期に、クラシック音楽作品のネタに最も登場するのは
シェイクスピアの作品では・・と述べた事があったが、これを「作品」という
レベルまで絞り込み、「クラシック音楽の素材として最も登場した文学作品」
というテーマにした場合、恐らく第1位はゲーテの「ファウスト」であろうと
思う。無論、何となくそんな気がする・・という不肖猫丸のテキトー極まりない
感触であって、厳密には「ロメオとジュリエット」あたりと「写真判定」位の
デッドヒートになる可能性はあるが・・・


「ファウスト」ものの音楽作品が非常に多いのは事実。ファウストのストーリー
を下敷きにした作品はもちろん、「蚤の歌」とか「糸を紡ぐグレートヒェン」
みたいな作品まで含めれば相当な数にのぼるであろう。面白いなあと思うのは、
ゲーテのファウストによる「大作」はベルリオーズの「ファウストの劫罰」や
グノーの「ファウスト」、ボーイトの「メフィストーフェレ」のようにドイツ圏以外の作曲家
の手によるものが非常に目立つ事。本家ドイツ・オーストリア圏の作曲家にとって、
「ファウスト」による作品を書く・・・という事は中々のプレッシャーだったようである。
ゲーテ自身が「ファウストを作曲できるのはモーツァルトだけだ」などと余計な事を
言うものだから尚更だ。数少ないドイツ系大作はシューマンの「「ファウストからの
情景」だろうが、シューマンもこの巨大・急峻な「ファウスト山」の制覇には散々
苦労したようで、完成に10年近くも費やしている。ちなみにこの曲、お世辞にも
知られているとは言えないが、如何にもシューマンらしい中々の名作である。


さて「ファウストもの」楽曲の中でもメジャーな存在の一つが「ファウスト交響曲」。
ただ、この曲はファウストのストーリーを追ったものではなく、ファウスト、
グレートヒェン、メフィストフェレスの3人の主要登場人物をそれぞれ3つの楽章に
当てはめ、性格描写を行なった・・・という作品。リストは若い頃に友人のベルリオーズ
から「この本読んでみろよ」と「ファウスト」を薦められ、たちまちハマってしまい、
ファウストに基づく作品を書いてみたい・・と思ったようだが、峨峨たる「ファウスト山」
の制覇は業師のリストでも容易では無かったようだ。結局、ベルリオーズから
あの「ファウストの劫罰」を献呈された事が大きな刺激になって本格的に作曲に
着手し、1857年に完成。リストが「ファウスト」に魅了されてから、ここまでに25年
以上!! やっぱり「ファウスト」は最強に手強い相手のようですな・・・・


この曲、最後にちょっとだけ男声合唱とテノール独唱が加わる。この合唱が最高に
カッコいい。全曲70分の大曲のわずかな部分(7分弱!)にのみ必要・・というのは、
演奏コストの面では「不経済」と言う他無く、実際リストは「合唱抜きヴァージョン」も作っていて、
DECCAのアルヘンタ盤など、その稿で演奏した音源もある。ただ、ヤッパリこの曲、
最後に合唱がビシッとシメないと、何か「メインが出てこなかったコース料理」みたいで
物足りない。この合唱は「ファウスト」の最終部分の有名な「神秘の合唱」を
テキストとしたもの。


その「ファウスト交響曲」の隠れ名盤と呼びたいのがアンセルメ。「猫丸の奴、
また珍盤を出してきおって・・」とお思いの方もいらっしゃるだろう。しかし、この録音、
アンセルメ&スイス・ロマンドの膨大な録音の中で、私がトマの「ミニョン序曲」と
並んで双璧の名演と断言したい逸品である(「ミニョン」もゲーテの作品がネタに
なっているのは面白い偶然だが)。この録音は1967年に行われており、この
アルバムに併録されているマニャールの交響曲第3番(1968年録音/これまた
名演!)と並び、この名コンビの最後の録音の一つである。「雄渾」という、あまり
このコンビには似合わないコトバがピッタリの、劇的で手に汗握る力演。
一昔前には「アンセルメ&スイス・ロマンドの録音は最早賞味期限切れ」的な論調が
幅をきかせた事もあったが、このところの再評価に接すると、やはりこのコンビ、
只者では無かったと再認識させられる。


さて次回は「神秘の合唱」にまつわるもう一つの大作と、その曲ゆかりの名指揮者
をご紹介!