★猫丸しりいず第245回
◎モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
アルバン・ベルク四重奏団/ヴォルフ(第2Va)
(海外EMI 5855812 ※7枚組「弦楽四重奏曲集&五重奏曲集」)
今回は第245回。当「猫丸」が吉祥寺のブログに移っての最初の回は第145回で
あったので、吉祥寺においても連載100回を超えてしまった。早いもんだ。


有名、無名の幾多の作品、作曲家をとりあげ、その都度様々な資料や文献等
に接してきたわけであるが、今更ながら痛感させられるのがモーツァルトという
男の別格ぶり。芥川也寸志氏は著書の中でモーツァルトを「異常なる天才」と
呼び、「異常ぶりを示す代表例」として、あの第39~41番の「3大交響曲」が
わずか1カ月半ほどの間に書き上げられてしまった、という事柄を挙げている。
そして、「その1カ月半の間にモーツァルトが書いた3大交響曲をはじめとする
全作品の楽譜を写せと言われたら、毎日この作業に没頭したとしても恐らく
1カ月近くはかかるだろう」と述べているのだ。日本を代表する作曲家を して、
このように言わしめている・・のは、大変な説得力だ。


そんな100年、いや1,000年に一人級の破格の才能を持っていながら、彼は
一般的な意味で「幸せな人生」を送ったとは言い難い。亡くなるまでの数年間は
特に金銭的な逼迫と健康状態の悪化で、悲惨な状況だったらしい。
そんな中でも、あらゆるジャンルに亘ってムラ無く、しかも膨大な数の作品を
生みだし続けたのには驚嘆する他無い。そしてその作品群に「経済的困窮」
などという「内部事情」みたいなものがまるで感じられず、常に完璧に仕上がって
いるのには「恐れ入りました」というコトバ以外出てこない。


そこで「弦楽五重奏曲第3番」。この曲は1787年の作品。「3大交響曲」の前の
年、「ドン・ジョヴァンニ」の初演と同じ年・・・という事になるが、この大傑作、
誰かからの依頼で書かれたという作品では無いのだそうだ。この頃既に彼は
収入の激減に悩まされ、借金を重ねていた。その状況の打開策の一つとして、
彼は弦楽五重奏曲を出版するから予約を承ります・・・という広告を新聞に
載せたのである。果たしてその広告の成果があったのかはわからないが、
「とにかく収入を得るため」という、誠に生臭く現実的な目的のために彼が
生み出した作品がこの「3番」と、ペアで書かれた「4番」という2つの大傑作だと
言うのだから、全く呆れてものが言えないではないか。


この「3番」の、特に第3、第4楽章は、まさに「モーツァルト的」なものの結晶とも
思える至高の名作。完璧無比の造形に、そこから自然に湧き上がる楽しさ。
困窮と体調の悪化という追いつめられた状況の中で尚、この曲や「3大交響曲」
のような珠玉の名作をかくも大量生産出来たモーツァルトという男、やはり
「異常なる天才」と呼んで間違いない。それははたから見ると、まるで音楽の
神に肉体を乗っ取られた男がただただその肉体を酷使されて、幾多の名作を
「作曲させられた」ようにすら思える程。彼は30代半ばで若死にしてしまうが、
こういう状態で仮に60とか70まで生きながらえたとしても、それは彼 にとって
幸せだったとは(私には)思えない。


さてこの完璧無比な「3番」の完璧無比な名演が、アルバン・ベルクSQと
マルクス・ヴォルフによる1986年の録音。その全く隙の無い「ピントが合いすぎた
写真」のような鮮明な演奏には賛否両論あるけれど、聴く度に「ヤッパ、
凄いわ」と感嘆してしまう演奏である。このセットは彼らが録音したモーツァルト
の弦楽四重奏・五重奏曲を集大成したお買い得BOX。


それにしてもアマデウスさん。「濃すぎる」人生、誠にお疲れ様でした。
自分の生み出した大量の作品が、死後200年以上経っても毎日のように演奏
されるなんて想像してましたか。何々?「俺の作品の演奏で生まれている収益
のちょっとでも、生きてる内に前払いでもらえてたら、あんなに苦労する事
なかったのに・・」ですって?  本当ですねえ・・ お気の毒・・・・

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