★猫丸しりいず第243回
◎ニールセン:アラディン組曲
ニクラス・ヴィレン指揮 南ユトランド交響楽団
(NAXOS 8557164)


◎モーリタニア・イスラム共和国国歌(ブレイナー編)
ピーター・ブレイナー指揮 スロヴァキア放送交響楽団
(MARCOPOLO 8201001 ※10枚組「世界の国歌 2013年完全版」)
ヨーロッパの作曲家たちにとって、トルコやアラブといった東方的、異国的な響きの
音楽や物語は、大いに創作意欲をかきたてられる素材であった。


そこで「アラビアン・ナイト」。まさに異国的で面白い話が満載なのに、これをネタに
した有名なクラシック音楽作品は意外な程少ない。「シェエラザード」は別格的に
有名だけど、「アリババと40人の盗賊」や「シンドバッド」を単独で素材にした有名曲が
見当たらないのは、私にとっては意外である。数少ない例外と言えるのが、カール・
ニールセンの劇付随音楽「アラディン」。1918~19年にかけての作曲・・という事は
交響曲第4番と第5番の間に書かれたというわけで、ニールセンが作曲家として
まさに脂の乗り切った時期に生まれた作品という事になる。


この傑作、マイナー名作と思いきや、実は吹奏楽に携わっている方には結構ポピュラー
な曲らしい(一部の曲が吹奏楽用に編曲されて頻繁に演奏されているとの事)。
レスピーギの「シバの女王ベルキス」も同様なポジションの作品だが、こうしたエキゾ
ティックな曲は吹奏楽では演奏効果が高いという事なのだろうか。
いかにもニールセンらしい、ガッチリした、推進力に溢れた、そしてユニークな曲である。
中でも素晴らしいのが「エスファハンの市場」。4つの異なった音楽が重なり、同時進行
しながら異国的な情緒を盛り上げていく。ペルシャのスークの中をさまよっているような
マカ不思議な感覚・・・。サスガです。ニールセンさん。
ちなみにご紹介のNAXOS盤、ニールセンの主要管弦楽曲を集めた1枚。曲によって
出来にバラつきがあるのは惜しいが、デンマークの楽団らしい、多少粗いが推進力に
溢れた演奏は「アラディン」には大きくプラスに働いており、楽しく聴ける。
 
今回はもう一曲、アラブ的エキゾティックな名作の最高峰と呼びたい名曲をご紹介
したい。しかもそれは「国歌」である。
 
「モーリタニア」という国をご存じだろうか。アフリカの北西部、モロッコの南に位置する
この国について即答出来るのは、私のような地図・地理ヲタクか、この国に関する
仕事に携わっている方くらいではないだろうか。しかしこの国、意外に日本とは縁が
深い。両国を結びつける大きな材料は「蛸(タコ)」である。日本で消費されるタコの多くは
、この国やモロッコといったアフリカ北西部から遥かかなたの日本まで運ばれてくる
モノなんだとか。この「モーリタニア・イスラム共和国」の国歌。これがヤバイ。
大傑作である。国歌の奥深さについてはこれまでも当「猫丸」で何度もとり上げている
通りだが、「任侠映画のテーマ曲」の如き、勇ましいアゼルバイジャンの国歌など私の愛する
ユニーク国歌が他にも色々ある中でもこの国歌は「別格」と言ってよい。
以前に当「猫丸」でアメリカ合衆国国歌「星条旗」を「実は意外に難曲」とご紹介した
事があったが(詳しくはhttp://blog-kichijyouji-classic.diskunion.net/Entry/1985/)、
モーリタニアの国歌はその「星条旗」すら「圏外」に追いやってしまう程の超難曲。
その「特異」すぎるリズムや旋律は、プロの歌手ですら容易に歌いこなす事は困難だろう。
ハッキリ言って、素人には「歌えない」。「誰にでも歌え、覚えられる普遍性」が国歌の
「キモ」であるならば(事実そういう国歌がほとんどである)、モーリタニアの国歌は
そうした要素を全く考慮に入れていない(ようにさえ思える)珍曲である。
 
しかし、「歌いやすい」「覚えやすい」等々の実用的な要素を全く排除した上で、これ程
魅惑的な国歌を私は他に知らない。そのブッ飛んだ魅力を味わえる音盤が、マニア
御用達のMARCOPOLO盤オンリーなのは「いかにも」な感じ横溢ではあるが、「エスニック
系名曲」を愛する貴殿なら知らないのは大損・・と断言したい珍作&名曲である。
ちなみにこの「世界の国歌完全版」は、「ここって普通の意味での独立国家じゃないんでは」
と言いたい「地域」のも含めた堂々CD10枚組の大偉業。
 
それにしても、欧州の、そして今日では私のような極東の住人をも魅了して止まない
文化遺産の宝庫が、イラク、シリア、イエメン、パキスタン、アフガニスタン等の「観光」
はおろか「入国」すら容易でない地域に散在している事は残念の一言に尽きる。
「古代から文明が栄えるほどの要所」だった事が、今日においても様々な勢力の
利権争いの最前線になってしまう事に繋がっているのだろうが、これらの地域を
「普通」に訪れる事が可能になる日々が遠からず訪れる事を熱望している。