★猫丸しりいず第242回

◎イッポリトフ=イワーノフ:トルコ行進曲、トルコの断章、「コーカサスの風景」第2組曲
アーサー・フェイゲン指揮 ウクライナ国立交響楽団
(NAXOS 8553405)
第239回で予告した「純正?トルコ行進曲」がいよいよ登場。その生みの親は、当「猫丸」
には久方ぶりの登場のロシアの大家、ミハイル・イッポリトフ=イワーノフである。
 
それにしても、ある程度の知名度を保っているにも関わらず、これほどまでに今日無視
されている作曲家も他にいないのではないだろうか。かつては有名だった「酋長の行進」
や、それを含む「コーカサスの風景」第1組曲は別にして、その作品はメジャー・レーベル
からは相手にもされず、音源入手にはNAXOSやMARCOPOLO、ASVといった「マニア系」
レーベルしか頼るすべが無い状態なのは、寂しい限り。
 
この人はリムスキー=コルサコフの弟子で、ペテルブルク音楽院を卒業後、現在のグルジア
のトビリシに新設された音楽学校の校長に就任。その後チャイコフスキーの推薦で、
モスクワ音楽院に着任し、その後長年に亘りモスクワ音楽院の院長を務めた。彼の作品に
コーカサスやトルコの音楽から影響を受けたものが多いのは、最初にグルジアに赴任した
事と繋がっているのだろう。
 
さて、そんな彼の「トルコ行進曲。何とも異国的で、明るいマーチである。植木等&水前寺清子
系・・というか、「ツライ事もあるけれど、そのうち何とかなるだろう」的な楽天的ムードがこの曲
最大の魅力。実際のトルコの軍楽にはもうちょっと哀愁というか、「翳り」みたいなモノもある
けれど、この楽しい曲の前ではそういう小ウルサイ事は言いっこなしだ。

他の収録曲も名作オンパレード。「トルコの断章」の第1曲「キャラバン」は、聴き始めて30秒も
しないうちに「ラクダに乗って荒野を進む商隊」の情景が即座にアタマに浮かぶ、まさに
「トルコ版 月の沙漠」と呼びたい超名作だし、「第1組曲」に比べて全く無視されているのが
不可思議な「コーカサスの風景 第2組曲」も名曲の一言。この「第2組曲」、第2曲の「子守唄」
に、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の「アラビアの踊り」と同じ旋律が登場して「オヤッ」と
思わせる。この物憂い、魅惑的な旋律は実はグルジアの子守唄なのだそうだ。3曲目の
「レズギンカ」は「ガイーヌ」でお馴染みのあの舞曲と同じだが、終始ハイテンションの「ガイーヌ」
のそれに比べ、最初はゆっくり始まり、徐々に音量、速度を上げ、最後はプレストで大熱狂という
巧みな緩急を用いたこの曲は「ガイーヌ」にも勝る興奮を呼び起こす。彼の作品をいろいろ
聴くと、なぜハチャトゥリャンの人気がこれほど高い日本で、イッポリトフ=イワーノフの曲が
全く無名なのか不可解に思えて仕方が無い。ちなみに彼は終始和音を「ジャン!ジャン!」と
2回鳴らすのが大好きという事もわかる。

彼の作品に特化したCDで最も入手しやすいと思われるのが、今回ご紹介のNAXOS盤。
この盤、最初の「コーカサスの風景第1組曲」が、何だか「低血圧の人の起床直後」という感じで
イマイチ血の巡りが悪く、「オイ!大丈夫か!」と先行きに不安を抱かせるのだが、続く「第2組曲」
以降は中々の演奏を聴かせてくれるので、まずはおススメ。
ところで、前々回でご紹介したグルジアの巨匠ジャンスク・カヒッゼ。イッポリトフ=イワーノフの
グルジア風味炸裂の名作たちを指揮するのに、これ程ふさわしい男も他にいないと思われるのに、
それが実現しなかったのは個人的には残念無念。「ガイーヌ」であれだけ吹っ切れた大名演を
成し遂げているだけに・・・・・

今や「絶滅危惧種」「危機遺産」なみのポジションにまで追いやられた感のある、イッポリトフ=
イワーノフの名作たちを忘却から救い出すために、立て!万国のイワーノフ好き諸君!!!