★猫丸しりいず第237回
◎ハチャトゥリャン:交響曲第2番「鐘」
アラム・ハチャトゥリャン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(独DECCA 448252-2)
世界のオーケストラの2大巨頭と言えばベルリン・フィルとウィーン・フィル。
貴方は「ベルリン派」か?「ウィーン派」か?と尋ねたら、結構意見は割れそうだ。


私はと言えば、断然「ウィーン・フィル派」である。
いや、ベルリン・フィルだって無論嫌いじゃない。しかし、カラヤン亡き後の
ベルリン・フィルは私には何だか「薄味」に感じられて物足りないのだ。


ウィーン・フィルに私が惹かれるのは、その「伝統」とかでは無くて、偉大なる
「芸人根性」である。「俺たちゃ芸人だぜ!」というスピリットをここまでハイレヴェルに
昇華させた団体は他には無い。それは彼らが「劇場の楽団」である事と無縁では
無かろう。ベームの「田園」とか「ハイドン交響曲集」のように、まさに「ウィーンの
薫り」と言うべき芳醇な音色で聴き手を酔わせたかと思えば、ノッたときの
「一丁やったるか!」という声が聴こえそうな猛烈な盛り上がり。極度に振幅の
大きい表現をいずれも高水準でやってのけるのは見事の一言である。


まさに膨大なこの楽団の録音の中でも、私が「3大名演」と呼びたい名盤。
その1がマルティノン指揮の「悲愴交響曲」。第1楽章の第2主題のまさに蠱惑的と
形容したい美演から一転、その直後の展開部の地獄の底に突き落とされるような
凄絶な猛演奏。その2がマゼール指揮の「マンフレッド交響曲」。第1&第4楽章の
とんでもないブチ切れぶり!あの柔和な「ベームの田園」と同じ1971年の録音で
ありながら、全く同じオケとは思えない。脱帽だ。


そして、その3、ウィーン・フィルの「裏名盤№1」の称号を捧げたいのが、今回
ご紹介のハチャトゥリャン。「交響曲第2番」は1943年に作曲され、プロコフィエフの
「交響曲第5番」やショスタコーヴィッチの「交響曲第7&8番」と並び立つ、
「第2次大戦モノ」の名作。ハチャトゥリャンは指揮者としても世界中から引っ張り凧の
人気で、日本を含む各国のオケで自作を披露したのだが、これは1962年の録音。
この録音が当初から計画されていたものなのか、実演の成功から急遽行われたもの
なのかはわからないが、普段のレパートリーからは全く縁遠い存在と思われるこの曲に
対し、ウィーン・フィルが信じ難いほどの共感と熱意のこもった爆演を聴かせる。


うねる様に情熱的で濃厚な「歌」を聴かせる弦楽器、ド迫力の打楽器、美麗な木管・・
強烈な爆演でありながら、ウィーン・フィルらしい持ち味を決して失っていないところに
この「芸人集団」たちのしたたかさを痛感させられる。本家アルメニアの楽団も真っ青、
と思わせる素晴らしい演奏だ。それにしても、手強いウィーン・フィルにここまでやらせて
しまうハチャトゥリャンという男、よほどオケの面々を惹きつける強力なオーラを放つ
人物だったのだろう。指揮者として大人気だったというのも何だかうなづける。
叶わぬ夢だが「交響曲第3番」も是非このコンビでやってほしかった。


尚、今回ご紹介のDECCAの2枚組、既に発売から20年近く経つゆえとっくに廃盤かと
思いきや、何と現役盤らしい。他にデ・ラローチャの弾く「ピアノ協奏曲」やリッチの弾く
「ヴァイオリン協奏曲」、スタンリー・ブラックの「仮面舞踏会」とのカップリング・・という
豪華な内容のおススメ逸品である。