★猫丸しりいず第234回
◎「十字軍の音楽」
デイヴィッド・マンロウ指揮 ロンドン古楽コンソート
(国内DECCA UCCD3257)
◎グリーグ:組曲「十字軍の兵士シグール」
オトマール・スウィトナー指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(国内キング KICC3657)



宗教あれば、そこに争いあり。


何とも皮肉な話だが、歴史を眺めているとそう感じざるを得ない。
異教徒間の戦いのみならず、例えば同じイスラム教徒間でもスンニ派とシーア派の
争いが古くからあるように、異宗派間での争いも残念ながら絶える事が無い。
更に最近ではアルカーイダ、イスラム国、ボコ・ハラム等々のイスラム系(と称する)
過激武装集団のテロ行為が世界を震撼させている。「イスラム=テロリスト」みたいな
偏った印象が世の中に流布してしまっている事は、大多数の善良、敬虔なイスラム
教徒の皆様にとっては、この上なく迷惑な話なのではないだろうか。


さて、「宗教間の争い」と言えば、何と言っても「十字軍」である。
しかし、あまりにも有名な「十字軍」だが、「十字軍」について一言で語る事はほぼ
不可能である。乱暴にくくってしまえば「聖地エルサレムをイスラムの手から奪還する
目的で派遣された遠征軍」という事になってしまうが、世界史の授業の中でも、
十字軍に関するオハナシはあまりに錯綜していて、訳がわからなかった事を未だ
良く記憶している。中には単に権力者の支配欲を満たすための手段と言うか、
「なんちゃって十字軍」と呼びたくなるものも多い。十字軍の遠征は結果として東西
文化の交流に結び付いた面もあるが、現在まで続くキリスト教とイスラム教の対立
感情の根っ子となってしまってもいる。


その十字軍時代の音楽を現代に甦らせた名盤が、33歳で夭折した天才デイヴィッド・
マンロウの「十字軍の音楽」(1970年録音)。実に刺激的な名アルバムで、演奏、
録音とも素晴らしい。アルバムタイトルから「突撃~ !!」的な勇猛な音楽が続くのか
と思いきや、実に牧歌的で心地良い響きの曲ばかりである。ドンドコドンドコという
太鼓のリズムに若干「戦い」を連想させたりもするものの、全体的にいたってのどかな
雰囲気。そして何より、全編に漂うエキゾティックと言うか「オリエンタル」な響きが
実に良い味わいを醸し出している。ギリシャ正教の本山として建てられながら、現在は
イスラム寺院となっているイスタンブールの「アヤ・ソフィア」をつい連想してしまうが、
「東西」と「異文化」が混合した不思議で、しかも居心地の良い響き。マンロウの傑作
である。


「十字軍」と言えばもう一曲、グリーグの名作「十字軍の兵士シグール」を忘れる事は
出来ない。この曲は12世紀に5,000人の兵を率いて聖地に赴いたノルウェーの王
シグール1世を題材とした戯曲のための劇音楽として書かれた作品。大傑作でありながら
「ペール・ギュント」や「ピアノ協奏曲」等の人気作に比べ、演奏機会も録音もわずかで
知られざる存在となっているのが惜しまれる。古雅な響きの「前奏曲」も良いが、
何と言っても素晴らしいのが堂々9分にも及ぶ「忠誠行進曲」。これ程壮大な行進曲は
他にあの「ジークフリートの葬送行進曲」位しか思い当たらない。この曲を聴くたびに
思わず居住まいを正してしまう私。「カウチポテト」などというだらけた聴き方を許さない
凛々しい名作である。


この「シグール」の名盤がスウィトナー。この盤さえあれば他は不要と言っても良い位だ。
スウィトナー&ベルリン・シュターツカペレの数多い録音の中でも疑いない最高傑作
である。カップリングの「ホルベルク組曲」や「ノルウェー舞曲」も素晴らしく、この
名指揮者にもっと北欧の作品をとりあげてほしかった・・・と思わせる。
切れば血潮の吹き出すような、「魂」のこもった「忠誠行進曲」は何度聴いても痺れて
しまう。幸いこの名盤、安価で入手出来る。多くの方に聴いて頂きたい超名盤だ。


異文化の接する所に摩擦が生ずるのは止むを得ない事とは思うが、昨今の「イスラム」
過激集団の動きを見ていると、この先どうなってしまうのか・・・という思いを禁じ得ない。
世界の人々がお互いの文化、宗教を尊重して平和共存出来る世界。それは夢物語に
すぎないのだろうか・・・。