★猫丸しりいず第231回
◎R・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
 ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」
 
ヘンリー・ルイス指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
◎ローザ:映画「ベン・ハー」の音楽
 
ミクロス・ローザ指揮 ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団 他
(独DECCA 4786769 「PHASE4ステレオBOX」41枚組)
当「猫丸」も2014年最後の回を迎えた。

振り返るに、今年も相変わらず過去の録音を集大成したボックスものが
怒濤の勢いで出続けたクラシック音楽ソフト業界であったが、それらの多くは
過去に容易に入手出来た音源をセット化しただけに思えて、私はほとんど関心を
持てなかった。

そんな中で「これは何としても入手せねば!」と久々にエキサイトさせられた逸品が
DECCAの「PHASE4」音源を集めたボックスである。今年は「PHASE4」のクラシック・
アルバムが発売されて50年目、という事で、それを記念して発売された代物らしい。
そもそも「PHASE4」とは「20チャンネルのマルチ・マイク・システムで収録した音を、
特別なミキサーを通してアンペックスの4トラック・レコーダーで録音、2チャンネルの
ステレオにミックスダウンした」モノだそうで、米国DECCAで開発され、元々は
ポピュラー音楽の録音に用いられたが、これに目をつけたのが我らがストコフスキー
大先生。彼の全面的なバックアップもあって、クラシック音楽の録音にも採用され、
それから10年以上に亘ってLPにして約200点!にものぼるアルバムが制作された
のだと言う。

この「PHASE4」、後期の1970年代半ばのものはかなりナチュラルな音づくりになって
いるが、初期の1960年代の録音は、ストコフスキーの「シェエラザード」や「バッハ
作品集」あたりに象徴されるメチャクチャにケバイ響き。音割れもなんのそのの
飽和感タップリの音響や、ホルンや低弦の笑ってしまうような強調等々、とにかく
好き嫌いがハッキリ分かれる超個性的な録音である。今回出たBOXは、ストコフスキー
の名盤の数々やミュンシュやドラティ等、これまでにも多く出回った音源も含まれて
いるが、フィストゥラーリの「白鳥の湖」(1973年のステレオ唯一の全曲録音)や
スタンリー・ブラックの一連のアルバムのように再発売はもう無いだろうと諦めていた
音源や、「まさかこれが出るとは・・・」とマニアが狂喜乱舞しそうな珍音源も少なからず
含まれているのが嬉しいポイント。

その「まさか」の筆頭なのが、アメリカの指揮者ヘンリー・ルイス(1932~1996)の音源で
ある。以前に当「猫丸」でピエリーノ・ガンバをとり上げた際、豪ELOQUENCEレーベル
からルイスの録音がリイシューされないだろうか・・と願望を記したのだが
まさか本家のDECCAから登場するとは正直想像もしていなかった。
しかも標記の2曲の他、「悲愴交響曲」や、奥さんのマリリン・ホーンと共演した「カルメン」
の抜粋など、CDでの入手は二度と不可能と思っていたレア音源の山。個人的には
「ツァラトゥストラ」も入れてほしかったが、それは贅沢すぎる希望であろう。
この指揮者、世界的に活躍する黒人指揮者のパイオニアと言える人だが、PHASE4
マニア以外でその名をご存じの方はほとんどいらっしゃらないだろう。実際、彼の演奏には
詰めの甘さも目立ち、B級なテイストが漂うのは否定できないので、まあ一般的には
忘れられても仕方ないのかなとは思うが、この「田園」は中々心地良い名演だし、
何よりPHASE4好きには懐かしいこの指揮者の録音をこれだけ復活させてくれたのには、
感謝する他無い。

もう1点は作曲者自らが指揮した「ベン・ハー」の音楽。これは1976年というPHASE4末期の
録音で、かなりナチュラルな音づくりとなっている。個人的にはこういう壮大な曲には
もっと「山っ気」炸裂のサウンドでも良かったんじゃ・・・とも思うのだけど、とにかく音楽が
素晴らしいし、ナショナル・フィルも毎度ながらノリの良い吹っ切れた演奏を聴かせる。
大音量で聴きたい痛快無比の傑作である。

この41枚組BOXには、他にもフィードラーとボストン・ポップスの名演の数々や、エリック・
ロジャースとロイヤル・フィルの「ケテルビー作品集」、そして大昔?に「猫丸」でもネタにした
ロバート・メリルの「アメリカーナ」等の名盤も含まれていて、まずは文句のつけようの無い
内容ではある。しかし、これが入らなかったのは残念至極・・と思える音源がPHASE4には
まだまだ残されている。フィストゥラーリ&ロイヤル・フィルによるチャイコフスキーの
「交響曲第4番」を筆頭に、ウェルナー・ミュラーのリロイ・アンダーソン作品集や、
ストコフスキーの「法悦の詩」「火の鳥」「運命&未完成」、ラインスドルフ「春の祭典」、
怪人カルロス・パイタの一連の爆演、バーナード・ハーマン「惑星」等、挙げ始めるとキリが
無い。DECCAさん、是非第2弾のPHASE4BOXをお願いします・・・。ただ、このBOXに熱狂
したのは一部マニアのみのように思えるし、無理かな・・・。

何となく「先行き不透明」感が拭えないままに終わってしまいそうな2014年。
来たる2015年こそは「明るい展望」が見えて欲しい・・・。
皆様、今年も1年間のご愛顧、誠にありがとうございました。
来年も吉祥寺クラシック館と、「猫丸しりいず」をよろしくお願いいたします!