★猫丸しりいず第225回
 
◎ランバート:リオ・グランデ
 
アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団 オルティス(P)
(英EMI 5865952 ※廃盤)
 
◎ランバート:バード・アクターズ、ロメオとジュリエット 他
 
 ジョン・ランチベリー指揮 ヴィクトリア州立管弦楽団
(英CHANDOS CHAN9865)
 
前回に続き、「人生」のオハナシ。
 
作曲家たちの人生は実に様々。波乱万丈型、安定型、フランクやブルックナーの
ような大器晩成型、はたまた以前に「猫丸」でもとりあげた、不運が重なったばかりに
若くして亡くなってしまったグラナドスのような特殊ケースもある。
(詳しくはコチラを・・ http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/1106/ )


そして、特異な才能を持ちながら酒浸りになって若死にした「アルコール破滅型」
と呼びたい御仁もいる。ムソルグスキーとレブエルタスがこのカテゴリーの「両巨頭」
と言えるが、そんな作曲家は英国にも存在した。その男の名はコンスタント・
ランバート(1905~1951)。


ウォルトンやティペットと同世代の作曲家だが、長寿を全うし国民的な作曲家という
栄光に包まれたこの2人と対照的に、ランバートは40代半ばで若死にし、今日ほぼ
英国音楽のディープな愛好家以外からは忘却された存在となってしまった。
しかし、彼は決して凡才では無かった。それどころか、音楽家としてのキャリアの
初期にジャズの影響を受けて彼が生み出した作品群は、まさにランバートならではの
ユニークな魅力に溢れている。その筆頭が「リオ・グランデ」。独奏ピアノと管弦楽、
独唱、合唱という編成の作品。どこかでこの曲の事を「ポーギーとべスの世界を
15分に凝縮した作品」と形容した文章に触れた記憶があるが、中々上手い表現
だと思う。シンコペーションを多用したピアノ・ソロ、黒人音楽の影響が感じられる
ノスタルジックな響き、威勢がよく、陽気でありながらどこか哀しい・・・。こんなに
個性的で魅力的な作品が20歳代前半の若者の手から生み出された事は、まさに
驚嘆に値する。ご紹介の演奏はプレヴィンのノリの良い演奏もさる事ながら、
私が贔屓にしているブラジルの名女流ピアニスト、クリスティーナ・オルティスが
共演しているのが誠にポイント高い。ただ、現状廃盤のようなのは残念至極。


ランバートの才能は、恐らく「業界」でも注目されていたのだろう。今回のもう一枚、
「ロメオとジュリエット」はあのディアギレフのロシア・バレエ団のために書かれた
作品。「リオ・グランデ」よりもさらに前、彼が二十歳そこそこの時に生み出した佳作。
「ロメオとジュリエット」自体では無く、「ロメオとジュリエットを上演するバレエ団」を
舞台にした、ひねった作品で、どこか人を喰ったような脱力感の漂う曲調には
いわゆる「英国的」な感じは稀薄。むしろサティ、ミヨー、プーランク、フランセ等々の
フランスの作曲家に近い軽妙さがあり、中々面白い。


しかし。人生は厳しい。彼の作曲家としてのキャリアは結果的にこの頃が頂点
だったようだ。作曲だけではメシの喰えないランバートは、その後バレエを中心と
した指揮者としての活動がメインとなり、長年の深酒や過労が次第に身体を
蝕んでいった。そして結局40歳代半ばという若さで糖尿病で亡くなってしまうので
ある。命を縮めるほどに飲んでしまう・・というのは、やはり尋常では無い。
若くして栄光をつかみかけながら、その後恐らくは不本意な人生を送る事に
なってしまった彼には、様々な人に言えない悩みやストレスがあったのだろうが・・。


余談だが、彼の息子キット・ランバートは英国3大ロックバンドの一角、「ザ・フー」の
マネージャーを務めた人。ところが、この息子も父親とほぼ同じ45歳の若さで
転落事故による脳溢血で亡くなってしまう。何とも奇妙な運命ではないか。


残念なのは、「アルコール破滅型」の他の2人、ムソルグスキーとレブエルタスの
作品が今日でも多くの演奏機会を持つのに比べ、ランバートの作品が本当に地味な
ポジションに追いやられてしまっている事。英国音楽好きの同志や、フランス六人組
の作品がお好きな方には是非ご一聴をおススメしたい作品である。


最後に自戒を込めて一言。
「酒は飲んでも飲まれるな」