★猫丸しりいず第223回
◎ロバート・ラッセル・ベネット:エイブラハム・リンカーン~交響曲の形式による肖像画
                  サイツ・アンド・サウンズ
 ウィリアム・T・ストロンバーグ指揮 モスクワ交響楽団
 (NAXOS 8559004)
◎ガーシュウィン:「ポーギーとべス」交響的絵画(ロバート・ラッセル・ベネット編)
 アンタル・ドラティ指揮 デトロイト交響楽団 (独DECCA 467410-2)
私の場合、音楽家との出会いは結構偶然が多い。それは当「猫丸」でも幾度もネタに
してきた通りである。


カッチェン、フィストゥラーリ、サージェントといった面々は、たまたま自宅にレコードが
あったので私が物心ついて初めて接したクラシックの音楽家たちである。そして、彼らは
今でも自分にとって特別な存在だ。そんな音楽家の一人であるが、一般的にはほとんど
知られていない御仁を今回はご紹介したい。その人の名はロバート・ラッセル・ベネット
(1894~1981)。今気付いたが、この人、あのカール・ベームと生没年がピッタリ同じである。


彼との出会いは(前回の内容にも繋がるが)自宅にあった7インチ盤だった。「舞踏への
勧誘」と「タンホイザー序曲」との組み合わせで、演奏はRCAビクター響。そして指揮者が
このベネット氏だったのである。ちなみにこの盤、収録時間の限界からか「タンホイザー
序曲」の前半がバッサリとカットされていた。無論初めて聴いた時にはそんな事とは
知らない私は、後でこの序曲の「全曲」(笑)を聴いた時、「何じゃコリャ!違う曲じゃないか」
と驚愕したものである。今では考えられない事だが、昔はこの手の荒っぽいカットは
珍しい事では無かったようだ。


しかし、その後クラシック音楽を本格的に聴き始め、様々な音源に接するようになっても
ベネット氏の名前を見かける事はまるでなく、いつしか彼の名は私の意識の中から
消えつつあった。が、ある曲を知った時、私は久々にベネット氏と邂逅する事となったのだった。
その曲は「ポーギーとべス 交響的絵画」。傑作オペラの名旋律を繋げた接続曲で、
その見事な構成とオーケストレーションに私は一発で魅せられてしまった。
そして曲名の横にあった「ロバート・ラッセル・ベネット編曲」という表記を目にした時、
私は金縛り状態に陥った。何と!ベネットさん!こんなところで!お久しぶりぢゃないですか!。


ここでようやくベネット氏の「正体」を私は知るところとなった。彼はカンザスシティに生まれ、
ナディア・ブーランジェらに師事し、ブロードウェイを代表する名オーケストレーターと
してガーシュウィンをはじめ、コール・ポーター、ジェローム・カーン、リチャード・ロジャース
等々の豪華メンバーと仕事をした大物だったのである。「ポーギーとべス交響的絵画」は
彼が1942年にフリッツ・ライナーの委嘱を受けて手掛けた曲。このオペラを熟知している方なら
お分かりいただけると思うが、この「交響的絵画」は単純にオペラの筋を追ったハイライト
版では無く、原曲の出て来る順番にはこだわらず、1つの管弦楽曲として構成し直したもの。
この曲、とにかく素晴らしい。「ストーリーを追う」事に拘泥せず、「聴き映え」に徹した事が
この上ない効果を生んでおり、「仕事人」ベネットの並々ならぬ能力を実感させる。
この作品の録音、何と言っても初めて聴いたプレヴィン&ロンドン響(EMI)盤が最高なのだが、
なぜか冒頭の「行商人たちの売り声のするキャット・フィッシュ・ロウの情景」と、途中の「嵐の
音楽」が丸ごとカットされているのが残念至極。そこで、その部分を含めた
全てをしっかり収め、しかも演奏、録音ともに優れたドラティ盤をご紹介する事とした。


そして今回のもう一枚は、そのベネット氏の作品集!。NAXOSの「AMERICAN CLASSICS」の
シリーズの一環として出たものだが、これがまたGOOD。ベネット氏の自作が聴けるとは
まさにNAXOS様様・・・。いずれも1929年の作品で、この人らしい明快でカラフルなサウンドが
楽しめる。時たまホルンがいかにも「ロシアです」という感じのヴィブラートを聴かせたりするのが
ご愛嬌だが、演奏も中々優れていておススメの一枚。とは言え、如何に珍品好きの私とはいえ、
上述の如きベネット氏との偶然の出会いが無ければこの一枚に手を伸ばす機会は無かった
かもしれず、誠に「偶然」というモノは恐ろしい。皆様にもこういう「偶然の出会い」から生まれた
「自分だけの名匠」みたいな音楽家、いませんか??