★猫丸しりいず第222回


◎クライスラー:愛の喜び、愛の悲しみ
ヘルムート・ツァハリアス(Vnと指揮) ベルリン放送交響楽団


◎ホフシュテッター:弦楽四重奏曲「セレナード」 ヴェーグ四重奏団 他


(DG 474576-2 2枚組 「the singles」)
前回でも述べた通り、かつてクラシック音楽にも多数のシングル盤(7インチ)
が存在していた。私も子供の頃自宅にストコフスキー&RCA響の「ハンガリー
狂詩曲第2番」等のシングル盤が何枚かあり、よく聴いていたのを覚えている。


しかし、シングル盤のために録音された小品の音源の多くは、その後の
LP、CDという変化の流れの中でほとんどが埋没してしまった。
収録時間の長さがメリットであるLPやCDには、シングル盤用の短い音源を
そのまま移すのは経済的にムリがあり、長時間収録のメリットを活かそうと
思えば脈絡の無い様々な音源を「寄せ集める」他ないが、この「寄せ集め形態」
では現実的に商品化は困難・・・と私は思っていた。


だから、まさかの「究極寄せ集めアルバム」が何とDGから登場した時は、
まさに驚嘆し、同時に狂喜乱舞状態であった。それが今回とり上げた珍盤
「ザ・シングルズ」である。CD2枚組に16枚のシングル盤からの30曲以上の小品
をギッシリと収録し、ライナーノーツにはオリジナルのシングル盤のジャケ写を
収録・・という感動の逸品だ。全て1950年代のMONO録音で、登場する
演奏家もヨッフム、フリッチャイ、フリッツ・レーマンからチェルカスキー、セゴビア、
オイストラフ親子、フォルデス、ドン・コサック合唱団等々、多彩且つ豪華な顔ぶれ。
曲目も1950年代という時代を感じさせるものが多く、今や中々聴けない作品も
多い。初CD化の音源もゴロゴロ入っている。


どの曲を代表選手にするか非常に迷ったが、個人的に最も印象的だった3曲を
とり上げる事に決定。まずはツァハリアス(1920~2002)によるクライスラーの
名曲2曲。ドイツのヴァイオリニストで1950年代にはポピュラー畑で中々の人気を
博した人。恐らくは彼の全盛期の1957年に録音されたこの2曲。これがヤバイ(笑)。
ヤバすぎる。「アンタ、マントヴァーニかい」と突っ込みたくなるゴーヂャスなエコー
たっぷりのストリングスに乗って、ツァハリアスがくり広げる「特濃」の演奏!
まさに1950年代という時代の香りがプンプンする。最初は「うおぉ」とのけぞる
この演奏だが、何度も聴くと結構ハマってしまうのだ。特に「愛の喜び」は最高!


そしてもう一曲。ホフシュテッター(1742~1815)の「セレナード」。と言っても、ピンと
来られない方も多いと思うが、かつてハイドンの作品とされ「ハイドンのセレナード」
と呼ばれた曲・・と申し上げれば「ああ、あれか」と思われる方もおられるかと思う。
永らくハイドンの作品と信じられていたが、実はハイドンの信奉者の修行僧で、
アマチュアの作曲家のホフシュテッターが作曲したものであると発覚(古典派ではありがちな
パターンだが)した作品。ただ、この曲もこの真贋論争が影響した訳では無いだろうが、
最早昔日のように親しまれているとは言えない作品になってしまったようだ。
ヴェーグSQによる演奏は「普段着」という趣きのまさに「普通」の演奏なのだが、
その事がかえって時代を感じさせる。


この「シングルス」に熱狂した人は残念ながら私を含めたごく少数のマニアにすぎなかった
ようだ。私は、この企画の続編を熱望していたのだが、続編どころかこの盤そのものが
今や新品での入手が困難な状況らしい(余程のマニアしか購入しなかったのか、
中古品の流通量も極度に少ない)のは残念の一言に尽きる。シングル盤音源はDG
ばかりでなく、RCAとか他のレーベルにも多く存在していた筈だが、それらが再び
日の目を見る機会はもう来ないのだろうか・・・・・・・・・・。