★猫丸しりいず第221回

◎エロール:「ザンパ」序曲 レズニチェク:「ドンナ・ディアナ」序曲
 オーベール:「黒いドミノ」「マサニエッロ」「青銅の馬」「王冠のダイヤモンド」序曲 他

アルベール・ヴォルフ指揮 パリ音楽院管弦楽団
(豪DECCA ELOQUENCE 4802385/2枚組 「OVERTURES IN HI-FI」)
クラシック音楽の世界にも「はやり」「すたり」は確実にある。

マーラーの交響曲や、「カルミナ・ブラーナ」「惑星」といった作品達がこれほど盛んに
演奏、録音されるようになるとは作曲者自身も恐らく思っていなかっただろう。
これらの曲が「はやる」ようになった背景には、録音技術の進歩があるのは勿論、
それを決定的に後押ししたのはCDというメディアの出現である。
大編成で長大な曲が普及するのにCDが果たした役割の大きさは計り知れない。

しかし、クラシック愛好家の嗜好がそういう「重厚長大」系に傾いた結果、以前に
比べて全く影の薄い存在に「成り下がって」しまったのが小曲、中でもオペラや
オペレッタの「序曲」ではないだろうか。レコードが一般に普及し始めた1950~60年代
には、クラシック音楽のレコードにも「LP」でない「シングル盤」、つまり7インチのレコード
が多数存在していた。そういう7インチ盤に収録するのに打ってつけだったのが、5~10分
位の長さの小品たちで、ステレオ初期はその手の小品、中でも「序曲」の全盛期だった。

しかし、クラシックレコードがほぼLPとなり、その後CDに移っていくに伴い「序曲」の地位は
没落の一途。ロッシーニ、ヴェルディ、ワーグナー等のごく一部の大物以外、今日全く影の
薄い存在になってしまった。中でも没落ぶりが酷いのが、今回テーマにした19世紀を中心
に活躍した作曲家たちの「序曲」である。これらの曲に多少なりとも馴染みがあるのは、
少なくとも私以上の世代の方々で、CD時代になって生まれた若い世代のクラシック・ファン
の皆様はこれらの曲を聴いた事がない・・・どころか、作品自体ご存じない方が多いのでは
ないだろうか。

良い意味での「お手軽感」に溢れたこれらの作品、まあ、「不滅の名作」と云われる作品たちに
比べればB級感は否めないとは言え、その屈託の無い楽しさはやはり忘却されるには
惜しい・・と思わせる。中でも全盛時にはワーグナーとパリ・オペラ座で人気を二分した・・・
とさえ言われるフランスの作曲家フランソワ・オーベール(1782~1871)の序曲にはその感が
強い。彼の名前は、パリ・オペラ座の最寄駅であるパリの地下鉄のオーベール駅の名前で
辛うじて記憶にとどめられている状態なのは寂しいが、浅草オペラで親しまれた「フラ・ディアボロ」
など、昭和40年代位までは日本でもそれなりに彼の作品は親しま れていた。
個人的に忘れがたいのは「マサニエッロ序曲」。この名序曲の中間部の軽快な旋律は、
私には「運動会BGM」として忘れ難い旋律である。と言うのも、我が母校の新宿の西戸山
小学校で、運動会の時に校庭のラウドスピーカーから必ずと言って良い程流れていた音楽が
この「マサニエッロ」であったのだ。無論当時はこの曲がオーベールの曲とわかって聴いていた
訳では無い。しかし、それから四半世紀近く経ってマルケヴィッチ&ラムルー管の演奏の
CD(DG)を聴いた時、「アッッ!! これ運動会の音楽じゃん!」と驚愕させられたのである。

これらの曲の録音と言えば、アンセルメ&スイス・ロマンド管やパレー&デトロイト響などの
ステレオ初期の名盤が未だに揺るぎない「代表盤」の地位を保っているのが何だか寂しい。
彼らのような「粋」な演奏が出来る指揮者がもういなくなってしまったのか、最早今日では
採算ベースに乗らなくなってしまったのか・・。そう言えば、デュトワ&モントリオール響が
アンセルメの衣鉢を継ぐレパートリーを続々と発表していた当時、私は密かにこのコンビが
これらのレパートリーを採り上げてくれる事を切望していたのだが、結局それは叶わぬ夢と
終わった。この系列の作品で彼らが残したのはトマの「レーモン序曲」位なもの。
エロールやオーベールはデジタル時代にはもう商業ベースには乗らない・・と判断されて
しまったのだとしたら、とてもわびしい。

今回ご紹介のヴォルフ(1884~1970)盤も永らく入手困難だった音源。ステレオ最初期の
1954~7年の録音でDECCAの往年の名プロデューサー、ジョン・カルショウやヴィクター・
オロフが携わった名盤である。オランダ人を両親に持つ名指揮者ヴォルフのDECCA
録音、オリジナルLPは高値を呼んでいるが、一般的にはほぼ忘れ去られた音源で、この
音源をギュスターヴ・シャルパンティエの「イタリアの印象」やマスネの「絵のような風景」
「アルザスの風景」等と共にCDリリースしてくれた豪ELOQUENCEには、
毎度の事ながら大喝采である。本当にこのレーベルの「オタク魂」には驚嘆するばかりだが、
担当ブレーンに直撃インタヴューしたい位(その際は是非、ヴィクトリアビターとか
ハーンスーパードライとかの豪州ビールを一杯やりながらが望ましい/笑)である。

ところで、上述の「7インチ盤」のために録音された多くの小品の音源は、その後のLP、CD化の
過程でも多くが埋没したままで、そのまま消滅してしまうかと思われた。しかし、捨てる神あれば
拾う神あり。そのお話は次回で・・・。

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