★猫丸しりいず第220回
◎バラキレフ:交響曲第1番
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団
(国内WARNER  WPCS-12701/2 ※2014年8月発売 ハイブリッドSACD
幅広いレパートリーを誇った巨匠カラヤン。しかし、彼は決して「何でも屋」では無く、
レパートリーの選択には彼独自の美学が感じられる。


実際、あれだけの膨大な録音を遺しながら、彼は意外な曲をとりあげていない。
「火の鳥」「ペトルーシュカ」「大学祝典序曲」「禿山の一夜」あたりはその代表格だが、
そう言えばショスタコーヴィッチも有名な「5番」には一顧だにせず、なぜか「10番」だけを
演奏している。


ロシア、ソ連系の楽曲に関しては、特にカラヤンの好みはハッキリしている。
一言で言って、「五人組」に象徴されるあまりにコテコテにロシアっぽい作品群は
あまりお好みで無かったように思えるのである。「シェエラザード」も1度しか録音して
いないし、その演奏も何か勘違いしてるんじゃないかと思える位にケバイ代物で、
シェエラザードがキャバクラ嬢になったんでは・・・と思える程の珍演であった。
これは「頼まれ仕事」だったのか・・・?。「展覧会の絵」は大好きだったようだが、
これはカラヤンがこの曲をラヴェルの手による洗練された管弦楽曲として位置付けて
いたからだろう。これが例えばフンテク版みたいな土臭い彩りに満ちたアレンジだったら
、カラヤンがあれだけ頻繁に演奏したとは考えづらい。


しかし、そのカラヤンが本当に意外な名作を若き日にとりあげていたのには驚いた。
それがバラキレフの名作「交響曲第1番」。1949年というから、彼がまだ40歳そこそこの
時の録音である。


バラキレフ(1837~1910)はロシア五人組の大将として名前は大いに知られているものの、
「イスラメイ」以外に一般的に親しまれている曲があまり無いのは残念だ。
2曲の交響曲や、交響詩「タマーラ」等の傑作はもっと頻繁に演奏されるべきと思うが・・。
ロシア産交響曲の中でも屈指の名作「交響曲第1番」は1898年に初演されているので、
「60歳過ぎてからの第1番とは随分遅いな」と思ってしまうのだが、実際には彼がまだ
20代半ばの1864年に着手されたそうだ。しかし長期に亘る作曲の中断等、様々な
紆余曲折を経て、完成されたのは初演の前年1897年。何と「苦節33年」!という、
あのブラームスの1番も真っ青の難産交響曲なのだ。


伸びやかで美しい第3楽章を筆頭に、活気溢れるスケルツォや終楽章も誠に素晴らしい。
巨匠ビーチャムが盛んにとり上げた事で「西側」でもポピュラーになった作品だが、
その後もあまり録音に恵まれているとは言えず、それがその名作がイマイチ「有名」に
なれない原因の一つとも思われる。


カラヤンの演奏はよく「流線型」と形容され(揶揄され?)、それが彼の演奏への評価や好みを
ハッキリ分けてしまう一因となってしまっているように思えるが、このバラキレフの演奏はそういう
後年のイメージからかなり離れた、「カラヤンさん、汗かいてますね」と声かけたい位
エネルギッシュでヤル気に満ちた好演となっている。彼がなぜこの作品を録音したのか、
という動機や経緯は寡聞にして知らないのだが、ベルリン・フィルとのステレオ再録音が
実現しなかったのはとても残念。それが実現していたら、この名曲がずっと冷遇される
事もなかったかもしれないのに・・。ただ、後年のスタイリッシュな演奏スタイルには
もうこの作品は合わなくなっていたかもしれないけれど。


ちなみに、最近発売されたこのSACD、カラヤンがその膨大な録音キャリアの初期に
とり上げながら、結局再録音する事の無かった作品を集めた、気の利いた企画の
2枚組で、バラキレフの他に「ルーセルの交響曲第4番」「カルタ遊び」やブリテン、
ヴォーン・ウィリアムスの曲が収められている。これがまた意外な秀演揃い。中でも
ルーセルの「4番」は中々良く、この曲や交響曲の「2番」「3番」とか「蜘蛛の饗宴」とかを
ベルリン・フィルと録音して欲しかった・・と思わせる。ちなみにこのSACDは「カラヤン没後
25周年記念企画」との事。エッ!(注:「エ」に濁点振って下さい)もう25年経ったのか!と
いうのが偽らざる思い。確実に「おぢさん」になっている自分を痛感させる衝撃(笑撃?)の
事実で御座いました・・・・。