★猫丸しりいず第219回


◎スカルソープ:アース・クライ
ジェイムズ・ジャッド指揮 ニュージーランド交響楽団 バートン(ディジェリドゥー)
(NAXOS 8557382)
◎スカルソープ:カカドゥ
ステュアート・チャレンダー指揮 シドニー交響楽団
(豪ABC CLASSICS 4264812)
極めて個性的で面白い作品を送り出し続けている現役の作曲家・・と言えば、当猫丸で
随分前にアメリカのマイケル・ドアティをご紹介済みだが(詳しくはコチラで・・・・・
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/808/)、今回はもう一つの「新大陸」
オーストラリア代表選手のピーター・スカルソープ(1929~)が登場。


もう「長老」と言ってよい年代になってしまった彼の作品に初めて接したのは、クロノス・
カルテットの弾いた「弦楽四重奏曲第8番」。同じ弦楽四重奏という演奏形態をとりながら、
ハイドンやベートーヴェンとは全く違う世界を描き出したそのユニークさは、即時に
私のツボにハマった。


ドアティの作品が「悪趣味」寸前のキッチュな面白さに彩られていて「四畳半での
どんちゃん騒ぎ」的なテイストを発散しているのとは対照的に、スカルソープの作品は
まあオーストラリアらしいと言うか、実に音空間が広く、ノビノビしていて思い切り「屋外」
という趣きである。先住民アボリジニの音楽や、インドネシア等のアジアの音楽の影響を
強く受けている彼の作品は、ユニークかつ聴きやすい面白いものが多いが、地元豪州
以外の音源が中々出なかった事もあって、まとめて聴くのが難しい状態が続いた。
そんな状態を解消したのが、今回ご紹介のNAXOS盤。このレーベルから色々と優れた
録音を出しているジャッドとニュージーランド響を起用した1枚。


冒頭の「アース・クライ」は、アボリジニの民族楽器「ディジェリドゥー」と管弦楽が共演
する作品。この「ディジェリドゥー」、何とシロアリに喰われて筒状になったユーカリの木
から作られるそうで、超巨大尺八かアルペンホルンか・・・という感じの姿をしている。
木で出来てはいるが、唇の振動等を利用して音を出すので楽器としては「金管楽器」の
仲間であるらしい。その音は実に奇ッ怪で、一度聴いたら忘れられない。
口琴やムックリの「ビヨ~ン」という感じの振動音をもっと野太くした、動物の唸り声の
ような神秘的な音色である。この楽器の音色を初めて聴いた白人には、この音が
「ディジェ リドゥー」 と聴こえたらしく、それが楽器名の由来だそうだ。
そんな「最古の管楽器」とオーケストラの共演。音響的にユニークというだけでなく、
一種宗教的、呪術的とも思える「祈りの感情」がジワジワと伝わって来る感銘深い作品だ。


そしてもう一曲「カカドゥ」。豪州の国立公園の名を冠したこの曲。荒々しい打楽器の
連打と管の叫び・・というオープニングが非常に印象的。壮大さと静謐さのコントラストが
絶妙で、まさにオーストラリア産・・と感じさせるこれまたユニークな作品である。
この曲はNAXOS盤にも収録されているので、通常であればわざわざ別の盤をご紹介
する必要は無いのだが、このチャレンダー盤はぜひ紹介したかった1枚である。
チャレンダー(1947~1991)という指揮者は、豪州のクラシック音楽シーンに関心の
ある方以外には全く知られていない人であろう。タスマニア島のホバート出身で、
20歳代からヨーロッパで活躍 し、1987年 にはシドニー交響楽団の指揮者に抜擢され、
さあこれから・・という時に40代半ばという若さでエイズで亡くなってしまった、という人
である。


シドニー響を指揮した「サロメの踊り」「1812年」などを聴いて、そのオーソドックスながら
活き活きとした演奏に大いに感心した私だったが、この「カカドゥ」は彼の長所が
万全に生かされた名演奏。オケをガッチリ掌握しながら、伸び伸び、活き活きと演奏させ
曲の美点を自然に引き出す彼の手腕は素晴らしい。病に斃れる事なく、ずっと活動が出来て
いたら、きっと豪州のみならず世界で活躍する中堅になっていただろうに・・・と残念に
思わせる音源である。入手容易とは言えない盤なのではあるが、その存在のみでも
知って頂きたい名盤だ。