★猫丸しりいず第215回

◎ドビュッシー:二つのアラベスク、前奏曲集第2巻~花火

リャン・ソンファ(梁成花/P)

(及川音楽事務所 YZBL1034)


ドビュッシーにはアジアが似合う。

日本の農村でも、インドネシアの熱帯雨林でも良いのだが、アジアの風景の背景に
ドビュッシーの音楽(特にピアノ曲)は実に良くフィットする。これが、例えば
ベートーヴェンやブルックナーだったりすると、そうは行かない。

実際、ドビュッシーはジャワのガムランに大きな影響を受け、東洋的な旋法を用いたり
「海」のスコアの表紙に葛飾北斎の浮世絵を使ったり・・等々、アジアの音楽や文化には
影響を受けていた事が伺えるし、何より「ガッチリ構築的」という造りとはまるで
対照的とも思える独特の時間の流れからは、アジア、東洋に通ずるものが感じられる。


印象的な名曲「花火」。この曲でのドビュッシーの独特な花火の描き方は誠に印象的だ。
花火にちなむ名曲と言えば、何と言ってもヘンデルの「王宮の花火」だけど、この曲が
まさに「玉屋~ 鍵屋~」系のド派手打ち上げ花火を想起させるのに対し、ドビュッシー
のそれはちょっと違う。曲の冒頭の「チョロチョロ」という感じの音型は、まるで線香花火の
火花が飛び散る情景のようだし、最後のクライマックスもせいぜい仕掛け花火の
「ナイアガラの滝」位のイメージで、夜空にバンバン上がる打ち上げ花火・・という感じでは
無い。この曲、おしまいに「ラ・マルセイエーズ」の断片がチラリと顔を出す事から、
「パリ祭」(7月14日)のド派手花火をネタにしたものと言われるのだが、私はこの曲から
そういう壮大な花火のイメージを想起出来ない。
ドビュッシーが日本の線香花火を知っていたとは思えないのだが、彼の「花火」の
描き方には、アジア的・・というか「盆栽」や「箱庭」に通じる「日本的」な雰囲気が
感じられてならない。
そんな「ドビュッシーとアジアの繋がり」を感じさせる好アルバムが、かなり前に
当「猫丸」でアルバム「アリラン」をご紹介した(詳しくはコチラで・・・・
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/710/)ピアニスト、リャン・ソンファさんが
昨年8月に第2弾として発表したCD「ドビュッシーとコリアン・メロディー」。


リャンさんが第2弾を出すに当たって、コリアン・メロディを主役に据えつつも、ご自分が
愛奏されているスタンダードなクラシック音楽作品も入れてみたい・・と思われた結果が
このユニークな組み合わせのアルバムになった、と想像するが、コリアン・メロディの
「前座」みたいなポジションに置かれているドビュッシーが実に良かった。


最初に入っている「二つのアラベスク」は、全てのピアノ曲の中で私が最も好きな曲の
一つだが、この演奏がとりわけ素晴らしい。この曲には透明でどこかヒンヤリとした感触の
演奏が多いが、この演奏は実にまろやかで「湿度」が高く、まさに「アジアの風景」に
ピッタリフィットの独特な名演である。クールな演奏が好みの方には「ドビュッシーと
しては丸すぎないか?」という印象を与えるかもしれないが・・。アジア的なまったり感と
鮮烈なコントラストを両立させた「花火」もなかなか良い。
続く「本編」のコリアン・メロディも無論良かったが、第1弾の印象があまりに鮮烈だったためか
、今回の第2弾はそこまでのインパクトは無かったというのが正直な感想。ただ、「境界線」
に当たるコリアン・メロディの第1曲「ひばりのうた」が、意識的にか偶然かドビュッシーを
思わせるアレンジになっていて、ドビュッシーからコリアンの世界へのうまい「橋渡し役」と
なっている。日本でも良く知られる「リムジン河」(日本では「イムジン河」だが)など、親しみ
の持てる曲ばかりだが、中でも印象的なのが「うさぎのダンス」。日本にも野口雨情&
中山晋平の黄金コンビによる同名の名曲があるが、なんとコリアン版「うさぎのダンス」は
3拍子!! 毎日「アリラン」や「トラジ」を聴いて育つとうさぎも3拍子で踊るようになるのか・・
と、妙なポイントに感心した私であった。
高温多湿な猛暑が続くアジアの夏。それをむしろ逆手にとって、アジアならではの雰囲気に
浸りたい・・。そんな貴方におススメの1枚で御座います。