★猫丸しりいず第213回
ターナー:テトゥアンのカスバ
ジャパン・ホルン・クインテット
(洗足学園 SZCD-0018 ※アルバム名「エル・カミーノ・レアル」)
昭和歌謡の名曲「カスバの女」。

1955年に発表されたが、諸々の事情で埋没してしまい、その後1967年に突如掘り起こされ大ヒット。
その後、藤圭子、青江美奈、矢代亜紀等々の大物歌手たちが次々とカヴァーし、私が子供の頃はかなり親しまれた曲
だったように記憶している。

小学生の頃この歌を聴いて私が「すげー」と思ったのは、『ここは地の果てアルジェリヤ』『明日はチュニスかモロッコか』
という歌詞。演歌なのにアラビアが舞台って一体・・・。ちなみに、戦前のフランス映画「望郷」(ジャン・ギャバン主演)が
下敷きになった作品なのだそうだ(それ故か、主人公の「カスバの女」は歌詞を読むと日本人では無く、パリから流れてきた
フランス女・・と思われる。フランス女性が主人公の演歌ってヤバイ・・)。
そしてその時私の頭にこびりついた一つの疑問は「カスバって一体何だろう?」。

「カスバ」とはもともと「城塞」という意味で、北アフリカの国々に多い、外敵の侵犯に備えるために築かれた砦や、砦に
囲まれた都市の事なのだそうだ。しかし、「カスバの女」の舞台になったアルジェのカスバ(世界遺産!)のように、
植民地時代に欧州人の作った「新市街」に対する、地元市民が居住する「旧市街」を指すケースもあるようだ。
そして私が久々に接した「カスバ」をテーマにした音楽。それが「テトゥアンのカスバ」。

テトゥアンはモロッコ北部にある街で、旧市街はこれまた世界遺産。スペインとアラブの入り混じった独特の雰囲気を
持ったところなのだとか。そんなエキゾティックな街を描いた作品の生みの親は、アメリカ・テキサス出身の作曲家、
ケリー・ターナー(1960~)。してその作品は、「シェエラザード」や「アラディン」のような絢爛なオーケストラ曲かと思いきや、
これが意外にもホルン五重奏曲である。ホルンと言えば、私が即座に連想するのは「アルプス」や「宇宙」。それには、
私のホルンという楽器に関する子供の頃の「原体験」が結びついている。私がこの楽器を初めて認識したのは、「アルプスの
少女ハイジ」や「ウルトラセブン」の主題曲であったので・・。齢がバレるが。だから「ホルンで描くモロッコ」というのは、
意外と言うか、聴く前にはまるでイメージが湧かなかった。

しかし、聴いてみるとこの曲、遊び心に溢れためっぽう楽しい傑作である。何より、ホルンという単一の楽器の合奏で
ここまで多彩な表情が描けるのか!と眼から鱗が落ちる思いであった。いかにも欧米人が捉えたらしい「ベタ」な「アラブ
風味」に溢れているのが微笑ましい、奇想天外な怪作にして名曲。作曲者のターナーは自らもホルン奏者だそうで、
この楽器の底力を熟知しているのだろう。9分弱の小品であるが、「ホルンってココまで出来るのか!」と終始感心してしまう
作品である。ただ、演奏する側にとってはかなりの難曲と想像される。その点、この盤の演奏はパーフェクトだ。

ジャパン・ホルン・クインテットは、長年読売日本響で活躍された山岸博さん(惜しくも今年の2月で読響から引退されたそうだが)
によって結成され、N響、東響、都響といった日本を代表するオケで活躍されている強者奏者5人によるアンサンブル。
この「カスバ」の収録されたアルバムは彼らの4作目のアルバムだが、シュティーグラーの「聖フーベルト・ミサ」のように、
まさに「ハイジの世界」を思わせる作品から、吹奏楽ファンにはおなじみのアルフレッド・リードの「エル・カミーノ・レアル」
(まさかと思われるだろうが、これをホルン5人のみでやっている!)等々、実に多彩な内容。彼らの技量の凄さを堪能出来る。
普段オーケストラの一員としてのホルンにのみ親しまれている方が聴いても、この楽器の表現力の幅広さを再認識
されるであろうアルバムだ。(※尚、このアルバムのライナーノーツは色々ご縁があって不肖猫丸が担当させて頂いている。
この点は一応おことわりしておきます)

ところで、モロッコ、アルジェリア等の北アフリカの国々はパリから飛行機で3~4時間。東京からだと上海や台北に行く位の
感覚である。だからフランス人と推測される「カスバの女」さんがアルジェを「地の果て」と捉えていたかは正直微妙だ。
この地域を「地の果て」と捉えるのは、やっぱり極東の国々の発想だろう。異国を舞台にしながらも、やはりコテコテに
「極東演歌」でした「カスバの女」・・・・・