★猫丸しりいず第211回

◎エネスコ:ルーマニア狂詩曲第2番、組曲第1番~第3番 他

クリスティアン・マンデアル指揮 ブカレスト・フィルハーモニー管弦楽団
(ARTE NOVA 74321-49145-2 4枚組 ※交響曲・管弦楽曲集)



ジョルジュ・エネスコ(1881~1955)は不思議な人だ。


ヴァイオリンの巨匠にして、作曲家・・というのは別に珍しくない。
ただ、パガニーニ、サラサーテ、ヴィエニャフスキといったその系列の人々の作品が、自らの楽器ヴァイオリンのためのものに
集中しているのに対し、エネスコは3曲のソナタ以外にヴァイオリンが主役の曲があまり思い浮かばない。
ヴァイオリンの名手でありながら、「ヴァイオリン協奏曲」が見当たらない(若い頃に着 手はしたようだが、習作で断片しか遺っていない
ようだ)というのは、私の眼にはかなり奇異に映る。


彼の楽曲の中で突出して有名な「ルーマニア狂詩曲第1番」は20歳頃の初期の作品だが、こういう起承転結のハッキリした
「わかりやすい」曲は彼の作品の中ではむしろ少数派で、彼の管弦楽曲の多くは「晦渋」とまでは言わなくとも、どこかつかみ所の無い
不思議なテイストの作品が多いのである。マーラーやR.シュトラウスのような大げさな装いをまといながら本音が良くわからないという
感じの・・・・。「ルーマニア狂詩曲」のような作品を期待して、例えば彼の3曲の交響曲に相対すると、特に2番、3番あたりの曲には
相当戸惑う聴き手が多いだろう。私も、エネスコの管弦楽作品の独特な味わいを楽しめるようになるまでには時間がかかった。


そんな「取っ付きづらさ」もあってか、「ルーマニア狂詩曲第1番」以外の曲がまるで親しまれていないのは、まあ仕方が無いかなとも
思うのだが、一つ納得の行かないのはもう一曲の「ルーマニア狂詩曲」、そう、「第2番」が全く知られていない事だ。
「第1番」に劣らないどころか、「狂詩曲」と名が付く全ての楽曲の中でも私の一番好きなこの名作がなぜ全く無視されているのか・・。


この曲は弦楽による序奏に続いて、郷愁に満ちた名旋律が3回繰り返し登場する。最初は弦楽で、次に木管が加わり・・。そして、この
2回目までは比較的淡々とした表情だったこの旋律が、3回目に「もうこれ以上気持ちを抑えられません!」と言わん ばかりに、ありったけの
感情を込めてフルオーケストラで演奏される。この瞬間がもう振るいつきたくなる位に素晴らしい。そして、東欧的な響きの中に明滅する
独特のトルコ的・・と言うか東方的なエキゾティックさが実に魅力的な作品なのだ。確かに「第1番」のような鮮やかなメリハリには
欠けるが、捨て置けない名作なのは間違いない。
この「第2番」、「第1番」に比べると録音の数もグッと少ないが、色々聴いた中ではやはり地元のルーマニアの演奏家たちの録音が
素晴らしい。上述の「3回の繰り返し」の部分での、1回目、2回目の抑え方、そして3回目の大輪の花が開くような吹っ切れた歌わせぶり!
ここの「呼吸」が誠に絶妙で、さすが地元の味わいと思って しまう。そこでARTE NOVAのマンデアル盤を御紹介。
ARTE NOVAにはこのエネスコの他ブラームスも録音しており、また最近ルーマニア・エレクトから突如ブルックナーの交響曲全集が
出て、一部マニアを歓ばせたルーマニアの名指揮者マンデアル(1946~)による、エネスコの主要管弦楽曲を集めたBOX。
お手頃価格、充実した内容の嬉しい1組。全く知られていない3つの「組曲」も中々面白い作品で、おススメである。
あまりに多芸多才で、かえって「正体不明」な感じになっているエネスコという音楽家。一筋縄ではいかない「謎」を秘めた彼の作品の
世界を貴方も覗いてみては?