★猫丸しりいず第210回
◎ファリャ:歌劇「はかなき人生」
ヘスス・ロペス=コボス指揮 シンシナティ交響楽団 他
(米TELARC CD80317)
以前この「猫丸」で、「オペラ界ダメ男大賞」のダントツ1位はピンカートン、2位はドン・ホセ・・という「判定」を下したが(詳しくはコチラ http://blog-kichijyouji-classic.diskunion.net/Entry/1918/)、ウカツであった。この2人の間に割って入る「伏兵」的なダメ男がいたのを、私はウッカリ忘れていた。


その男とは、ファリャの傑作「はかなき人生」の登場人物、パコである。


このオペラ、途中に登場する「スペイン舞曲」はファリャの代表作としてやたらと有名なのに、肝心な全曲が全然と言って良い程知られていないのが誠に残念。ヒロインのジプシー娘、サルーの悲恋物語である。舞台はグラナダだが、そのダメ男パコはサルーの恋人。サルーはパコの事を真剣に愛しているが、何とパコは彼女を裏切り、お金持ちの令嬢カルメラと結婚してしまう。婚礼の祝宴に乗り込んだサルーは、恋人の裏切りという現実を目の当たりにし、悲嘆と絶望のあまり死んでしまう・・・というストーリー。1時間前後という、コンパクトな作品である。


自分の事を真剣に愛する女性を裏切り、しかも相手に全く告げないまま他の女性と結婚し・・という行動はピンカートンと瓜二つ。結婚相手はジプシー娘で無く、同じ上流階級の女性で・・という打算も見え「パコさん、アンタ本当にカルメラの事を愛しているのかい?」と訊いてみたくもなる。「蝶々夫人」におけるケイト夫人同様、サルーだけでは無くカルメラにも心の傷を負わせてしまっているパコ。やっぱりピンカートン級のヒドイ奴だ。よって、彼には「オペラ界ダメ男第2位」の称号を与え、ドン・ホセ氏は3位に陥落という事にいたしたい。


それにしても、この名作が何故これほどまでに知られていないのか。その原因の一つは淡々としたクールな音楽運びだろう。婚礼の祝宴の情景から、最後のサルーの死に至る後半部分は多少オペラっぽい盛り上がりを見せるが、多くの聴き手がオペラに期待するであろう、朗々としたアリアとか起伏の激しい展開とかは見られない(同じスペインやジプシー女性が素材の「カルメン」とは、その意味でまさに対照的な作品だ)。
しかし、その点こそがこの曲の魅力なのだ。ファリャという作曲家は、「三角帽子」でクールで済んだ響きとスペインらしい熱狂を両立させるという離れ業を演じた人だが、この「はかなき人生」も、過度な熱狂抜きで、それでも間違いなく「スペイン」を感じさせる、極めてファリャらしい凝縮度の凄い作品と思う(面白いのは、スペイン以外の国の作曲家が「スペイン」を描くと、過剰なまでに「情熱の国」っぽい雰囲気を強調するのに比べ、スペインの作曲家が自国を素材にした作品はそこまで手放しの熱狂という感じでは無く、どこかちょっと「冷えた」部分がある点だ)。


さて、この曲の名盤としては、ロス=アンへレスが主役を歌ったEMI盤がまさに定番とは言えるが、今回は大穴名盤ロペス=コボス盤を。思い切り地味な存在であるが、演奏、録音共に優れている上、何とあの「カスタネットの女王」ルセロ・テナが参加しているのも嬉しいポイント。ロペス=コボス&シンシナティ響の名コンビは、テラークにブルックナー、マーラーといった重厚長大系楽曲から、レスピーギ、デュカス、ヴィラ=ロボス等の多くの録音をしており、どれも中々高水準の演奏にも関わらず、日本では全くと言って良い程に無視されているのが残念。1940年生まれのロペス=コボスは30歳代から国際的な活躍をしていて、他にも珍しくロサンゼルス・フィルを振ってDECCAに録れた「三角帽子」など、優れた仕事を少なからず残しているのだが、「酒場のマスター」みたいなあの風貌で「損」をしているのかな?・・・。
ともあれ、ありそうで無い「スペイン人によるスペインオペラ」。ファリャはモチロン、スペイン音楽のお好きな貴方、是非ご一聴を・・。