★猫丸しりいず第208回
◎プロコフィエフ:バレエ音楽「シンデレラ」
アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団
(米EMI 67706 2枚組)
 「不遇の傑作」という「称号」を贈りたいクラシック音楽作品がいくつかある。
曲の出来栄えも演奏効果も、知名度もその作曲家の他の有名作品に全く劣るところが無いのに、なぜか地味な存在に甘んじている名作。当「猫丸」で、かなり前にそんな「不遇の傑作」の代表選手としてベルリオーズの「イタリアのハロルド」をとりあげた事があったが(詳しくはコチラ http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/798/)、プロコフィエフの傑作「シンデレラ」も「不遇度」では決して「ハロルド」に劣らない。

大ヒット作「ロメオとジュリエット」の7年後に初演された、いわば「妹分」と言える作品。しかし「姉さん」の圧倒的な大人気の陰で、この妹は全く目立たない。全曲、組曲共々音盤溢れかえる「ロメオとジュリエット」に比べ、「シンデレラ」は音源の数も非常に少ない。姉貴に引けをとらない美女であるのに、この冷遇ぶりはあんまりではなかろうか。
この2曲にどうしてここまでの人気の落差が出来てしまったのか。全くの私見ではあるが、その原因は「演奏会用のオーケストラ曲としてのインパクトの差」にあるように思う。「ロメオとジュリエット」は古今東西のオハナシの中でも屈指の起伏の激しい、急展開を伴うストーリーで、やれ「運命の出会い」だ
「決闘」だ「悲劇的な死」だ・・と見せ所のポイントにも事欠かない。プロコフィエフの曲もバレエ音楽として優れているのは勿論だが、それ以上に、あたかも長大な交響詩のように、「踊り」の要素が無くとも聴き応え充分の「管弦楽曲」としてとして成立してしまっており、それがこの曲の安定した人気・名声に結びついているように思われるのだ。
それに対して「シンデレラ」は、誰もが知っている超有名なオハナシではあるが、物語としては「ロメオとジュリエット」に比べると起伏は遥かになだらかである。「12時で魔法が解けてしまうのに慌てたシンデレラが靴を落としていってしまう」「落とした靴を頼りに王子がシンデレラを見つけ出す」という有名な場面が一番の山場とは言えるが、それ以外は比較的淡々とストーリーが進行していく。ちなみに「シンデレラ」系の物語は世界各地に様々なヴァージョンがあるが、日本では「シンデレラ」のストーリーの代名詞のようになっている「ガラスの靴」や「カボチャの馬車」は、あのシャルル・ペローが付け加えた「素材」なのだそうである。
有名ではあるが平坦なストーリーという要素が「災い」?したか、超有名な割にこの「シンデレラ」を題材とした音楽作品は意外に少なく、プロコフィエフの他にはロッシーニやマスネのオペラが知られている程度だ。プロコフィエフの曲は「ロメオ」と異なり、「ストーリーをフォローする」要素は薄く、「踊り」の要素を前面に押し出した作品となっており、結果としてバレエの現場を離れて演奏会で「管弦楽曲」としてとり上げられる機会はほとんど無く、それが「傑作なのに影が薄い」という残念な結果に繋がっているように私には感じられる。


しかし、プロコフィエフ以外の何人にも成し得ないと思われる精妙なオーケストラの扱いから生み出される澄んだ響きや、独特の躍動感は、姉貴格の「ロメオ」よりむしろ「シンデレラ」の方に活かされているように私には思えてならない。ただ、残念ながらこの作品の長所を十全に生かした録音が中々見当たらない事も、この名作がずっと地味な存在に甘んじている一因では無いか。この曲のクール・ビューティな装いを最も完璧に再現できるのはクリーヴランド管弦楽団・・・という感じが個人的には強く、実際DECCAから録音も出ているのだが、誠に残念ながらアシュケナージの指揮が一本調子で不完全燃焼な結果に終わっているのは残念。


色々聴いた中で一番良かったのが今回ご紹介の1983年録音のプレヴィン盤。オケの精度がややユルイのは否めないが、実に聴かせ上手。そして
プレヴィン&ロンドン響の録音の多くを手掛けたEMIのエンジニア、クリストファー・パーカーのカラフルな音づくりが実に素晴らしい。チャイコフスキーの「3大バレエ」やメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」、ガーシュウィンの「ポーギーとべス組曲」等、この名コンビを代表する魅力的な録音のほとんどに彼が携わっていたように記憶しているが、名演奏を更に磨き上げて「名盤」として残すために、作り手のプロデューサーやエンジニアの力が如何に大きく寄与するかを痛感させる逸品でもある。


余談ではあるが、ワーナーにEMIが吸収されてしまった今、クラシック音楽界の一つの「文化遺産」と言っても過言では無いEMIの膨大な録音が今後どうなってしまうのかは非常に心配である。EMIは欧州の色々な国で、まさにその国の持ち味を生かした幾多の名録音を遺しており、それらの中には既にレコード→CDの移行期に一気に存在感の薄くなってしまった知る人ぞ知る名音源も少なからず存在するのだが、レーベル自体の消滅に伴い、その手の音源が入手出来る望みはますます薄くなってしまうのだろうか? そうだとしたら誠に残念ではあるが、そうなると「埋もれさせてはいけない名録音」の事を世の中に発信し続ける事は私たち中古ショップの大きな使命と感じてしまう。不肖猫丸もガンバリます!

ディスクユニオン吉祥寺クラシック館

〒180-0004
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-24
小島ビル3F
tel : 0422-23-3532
fax : 0422-23-3530
mail: dkkcl@diskunion.co.jp
買取専用フリーダイヤル

0120-273-537

営業時間

11:00~20:00