★猫丸しりいず第207回
◎ホヴァネス:そして神は偉大なる鯨を創りたもうた
ジェラルド・シュウォーツ指揮 シアトル交響楽団
(米DELOS DE3157)
世の中に「動物モノ」と呼べるクラシック音楽作品は、古くはマラン・マレから新しくは「ピーターと狼」に至るまで、まさに枚挙にいとまが無い状況である。そんな中でも飛び切りユニークな「鯨とオーケストラの共演」という作品を今回はご紹介したい。
その「そして神は偉大なる鯨を創りたもうた」は、アルメニア系アメリカ人の作曲家アラン・ホヴァネス(1911~2000)の作品。この人、以前「猫丸」でネタにした事のある作曲家コンヴァース(詳しくはコチラでhttp://blog-kichijyouji-classic.diskunion.net/Entry/1835/)が師匠との事。その風貌は仙人か、はたまた怪しい宗教の教祖様か・・という感じで、何だか浮世離れしているのだが、彼の作品にもまた一種独特の「浮世離れ感」が漂っている。


ホヴァネスは多作家で、交響曲を何と67曲!も遺している。彼の作品に対しての私の印象は「明晰なのに茫洋」。何だか矛盾した言い回しではあるが、
アルメニア系という出自から連想されるハチャトゥリャンのような「熱血・土俗」テイストはまるでなく、クールと言って良い程の澄んだ響きでありながら、どこか捉えどころの無い、まるでお寺の梵鐘がボ~ンと鳴るのを聴いているような不思議な時間の流れを感じさせる作品が多い。


彼は東洋の音楽に大きな関心を持ち、インドやタイ、韓国等々を研究のために訪れ、日本でも雅楽や浄瑠璃を学んだ事もあるのだそうだ。彼の作品に漂う西洋の時間感覚とちょっと違った茫洋とした感じは、確かにどこか東洋的である。


「そして神は偉大なる鯨を創りたもうた」は1970年の作品。テープに録音されたザトウクジラの鳴き声とオーケストラが共演する12分強の曲。まさにホヴァネス的な独特の時間感覚に満ち溢れた名作である。この曲を聴くまで私は「鯨の声」を知らなかったが、「へえ、こんな甲高い声で鳴くのか」とちょっと意外な感じであった。ちなみにこのシュウォーツ盤の鯨の声は、ライナーノーツによれば、ハワイのカウアイ島の沖で録音されたものとの事。


ところで、この曲には忘れられない思い出がある。もう10年近く前だろうか、このCDを自宅で聴いていたら、この「鯨の鳴き声」の箇所になった時に、何やら背後からドタドタと猫の足音が・・・。当時我が家には4匹の猫がいて、まさに「猫屋敷」状態だったのだが、その4匹が突然集結し、鯨の声を発するスピーカーに向かって一斉に毛を逆立ててシャーシャーと威嚇を始めたのである。彼らが聴きなれない鯨の声を聞きつけて、「外敵の襲撃」と思っているのは明らかだった。今にもスピーカーに飛びかかるのではないかと思う程の剣幕に私は度肝を抜かれ、慌ててCDをストップさせた。「外敵」の声が止んだら、猫軍団は「アレ?今のは一体何だったのだ?」という怪訝な様子で周りをキョロキョロ見回し、毛繕いなどしながら立ち去っていったのだが(猫が「目的」を果たせず、とりあえずその場を取り繕うのに何故か「毛繕い」をする習性は面白い)、おかげで私は自宅でウッカリこの曲を聴く事が出来なくなってしまった(笑)。


その時痛感したのは、普段はボ~ッとしているようでも猫は基本的にライオンや虎と同じく「肉食猛獣」であるという事。彼らをナメてはいけない。実際、動物の声の入ったCDを聴いていたら、興奮した猫にスピーカーを壊されてしまった・・という実話も聴いた事がある。猫好きの皆さん、くれぐれもご注意の程を・・(真剣)。


今やその猫たちも全員天国へ旅立ってしまい、すっかり静かになってしまった我が家で私は何の遠慮も無くこの「そして神は偉大なる鯨を創りたもうた」を聴く事が出来るようになったのだが、何だか寂しい気持ちなのは否めない。あの「猫vs鯨 世紀の決戦」の修羅場の情景は、これからもこの曲を聴くたびに私の脳裏に甦る事だろう。