★猫丸しりいず第206回
◎ラロ:チェロ協奏曲
 ピエール・フルニエ(Vc)
ジャン・マルティノン指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団
(独DG 457761-2)
◎ショスタコーヴィッチ:チェロ協奏曲第1番
ピエール・フルニエ(Vc)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
(CASCAVELLE VEL3144)

前回に続き、「幻の演奏会」のオハナシ。

私は20~30歳代にかけて、NHK響の定期演奏会に足しげく通っていた。その中で、チケットも入手し最大限の期待を持って待っていたにも関わらず、実現される事の無かった、私にとって「痛恨」の演奏会が2つある。その一つ、「幻のギュンター・ヴァントの第九」については、既に大分前に当「猫丸」でとりあげている(詳しくはコチラで http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/934/)。そして、もう一つ。それが「幻のフルニエのラロ」。

逝って20年近くが経った今でも、絶大な人気を保つ「チェロのプリンス」フルニエ。親日家として知られ、1954年の初来日以降何度も来日して名演を聴かせたこの巨匠が、何と1986年3月のN響定期に登場する・・と聞いた時、当時大学生だった私は思わずコーフンした。ナマのフルニエが聴ける・・というだけでも凄いのに、曲目が何とラロの協奏曲!
ドヴォルザークと並ぶ「チェロ協奏曲の横綱」でありながら、中々実演に接する事のないこの名作を、フルニエというこれ以上「適材適所」とは思えない大巨匠の演奏で聴ける・・・。私はワクワクしながらその日を待っていた。

その1986年の正月明けのある日。何気なく新聞を読んでいた私の眼は、一つの訃報に釘付けになった。「チェロの巨匠。フルニエ氏死去」。

いきなり頭をガン!と殴られたようなショックで、思わず持っていた新聞を取り落しそうになった。齢80になろうとする老巨匠なのだから、いつそういう日が来てもおかしくはなかったのだが、この巨匠のナマのステージに接する機会を失ってしまった事に対する喪失感は、しばらく私の心の中から消える事は無かった。

結局、幻に終わった「フルニエのラロ」の生体験。しかし、その「渇望」感はDGに彼が遺した1960年の録音でかなり癒す事が出来る。1960年代はフルニエにとってまさに「絶頂期」と言える時期。録音後50年以上経った今でも絶大な支持を維持しているバッハの「無伴奏」やセルと共演したドヴォルザークの協奏曲等、彼の代表的な録音の多くがこの時期の産物。ご紹介のDG盤は2枚のレコードからの編集盤で、他にサンサーンスの「1番」や、「コル・ニドライ」「シェロモ」と多彩且つ対照的な曲目を収め、この稀代のチェリストの凄さを堪能出来る逸品となっている。
フルニエの演奏は「プリンス」「貴公子」といった賛辞にふさわしく、実に凛々しく完璧で、惚れ惚れする程に端正なのだが、それでいて「薄味」な感じや物足りなさを全く感じさせないのが凄い。このDG盤、お目当てのラロの素晴らしさはもちろんの事、普段はギトギト感が漂い、聴いた後「天ぷら大量喰い」の如き胸焼け感の残る事の多い「シェロモ」を、これだけ凛とした風情で弾いて、尚聴き手を圧倒させてしまう至芸には「参りました」と敬服するのみ。

そんなフルニエの至芸を別の角度から堪能出来るのが、今回の「もう1枚」のCASCAVELLE盤。この盤は彼がスイス・ロマンド管に客演した際のライヴ音源を集めたもの(シューマン&マルティヌー&ショスタコーヴィッチ「1番」という何ともそそられる曲目)だが、入手したそもそもの動機は「フルニエの独奏だから」というポイントより、むしろフリッチャイ、サヴァリッシュ、ホーレンシュタインというマニア狂喜の共演指揮者陣にあった。中でも最高に「そそられた」のが1962年12月のライヴである、ホーレンシュタインのショスタコーヴィッチ。しかし、聴き始めた途端、私の耳は本来の「主役」であるフルニエのチェロに惹きつけられる事となった。「快刀乱麻を断つ」という形容がまさにふさわしい冴え渡った妙技と、キリリとした気品を両立させた名演奏には「恐れ入りました」という他無く、聴き始めてすぐに、私は「共演指揮者」の事などどうでも良くなって、ただフルニエの名演にひたすら聴き惚れる結果となってしまった(ホーレンシュタイン大先生、誠に申し訳御座いません/笑)。

結果として「幻」となってしまった1986年の来日公演が実現していたとしても、果たして私が彼の1960年代を中心とする幾多の名演と同等の感銘を得られたかどうかは、今となっては定かでは無い。それでも尚、ひょっとしたら自分の音楽人生にとって忘れられないポイントになったかもしれない「その日」を迎えられなかった残念な思いは、これからも私の心の中にずっと「こびりついて」いる事だろう。

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