★猫丸しりいず第205回
◎R・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」
サー・エードリアン・ボールト指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ジャクリーヌ・デュ・プレ(Vc)他
(国内EMI TOCE8805 ※廃盤)
リヒャルト・シュトラウスの名作「ドン・キホーテ」。
私はこの曲を聴くと、どうしても思い出してしまう素晴らしい音楽家がいる。
それは山本直純さん(1932~2002)だ。

 
直純さんが亡くなって早くも10年以上が経過し、若い世代の方には「山本直純」と言ってもあまりピンと来ない方がひょっとしたら増えているのかもしれない。あのヒゲ、黒縁メガネ、ド派手衣裳、ガラガラ声というあまりにも「立ちすぎるキャラクター」でまさに八面六臂の活躍をした直純さん。小林亜星さん同様、そのあまりの多芸多才ぶりがかえって彼の音楽家としての凄さに対する評価を阻んでいるような気がしてならない。

 
私がクラシック聴き始めの中学生の時にさんざんお世話になった、あの名番組「オーケストラがやってきた」での、ユーモラスでわかりやすい司会ぶりにこの人の有能ぶりは明らかだったが、「男はつらいよ」やNHK大河ドラマのテーマ曲の中でも屈指の名作「風と雲と虹と」「武田信玄」を書いた作曲家としての才能もピカイチ。「この山本直純っていうヘンなおじさん、実はかなり凄い音楽家ではないか」と中学生の私は生意気にも彼を「高く評価」していた。ただ一つ引っかかっていたのが、「このオジサン、普通の?指揮者としての活動はしていないのか?」という点。そんな折も折、その直純さんがナントあのN響の定期公演に登場するというニュースにブッ飛んだのは、私が中学3年の1978年。

 
その年の9月の定期公演に直純さんが登場する事が告知された時には、エッ!と度肝を抜かれたが、さらに驚いたのはそのプログラム。
 
◎リスト:交響詩「レ・プレリュード」
◎ハイドン:交響曲第45番「告別」
◎R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」(チェロ/堤剛 ヴィオラ/菅沼準二)

恐らくは直純さんご自身がチョイスした曲目なのだろうが、彼の「日常活動」から想起される「ポピュラー名曲」ではなく、当時「クラシックビギナー」であった自分には結構敷居が高い・・とすら感じさせたラインナップに、直純さんの並々ならぬ「決意」が感じられるプログラムであった。「直純さんは、実は凄いミュージシャンだと信ずる人々の会 品川支部所属」を自認していた私としては、このコンサートに多大なる期待をイヤでも抱く事となったのだが・・。

 
しかし。

 
その演奏会は「幻」で終わってしまった。

 
私と同世代以上の方にはご記憶の方もいらっしゃるかもしれないが、直純さんはよりによってこの演奏会の直前の8月に交通違反スキャンダルを引き起こし、しばらく「謹慎」を余儀なくされ、N響への登場も中止となってしまったのである(実際の演奏会では、外山雄三さんが代打を務めた)。人生の一大転機となったかもしれない大チャンスを、「身から出た錆」でムザムザ棒に振ってしまったのは、ある意味では奔放な直純さんらしいとも思えるが、直純ファンの私には誠に痛恨事であった。日本を代表するソリスト2人を従えて、直純さんが振る「ドン・キホーテ」。やっぱり聴いてみたかった。実現していたら、直純さんの「音楽家」としての真の凄さを知らしめる絶好の機会になったかも知れないのだが・・。

 
その「ドン・キホーテ」。今回ご紹介の盤は、20年ほど前に発売された時「デュ・プレの未発表音源の発掘」として大きな話題を呼んだもの。実はデュ・プレにも「N響での幻のコンサート」があったのをご存じだろうか。
1973年4月に若き日のバレンボイムがN響に客演した時、定期公演でデュ・プレと共にドヴォルザークの協奏曲を演奏する事になっていたのだ。しかし、この時彼女の身体は既に病魔に蝕まれており、予定されていた公演は全てキャンセルとなり、そのまま演奏活動から引退する事になってしまった
(実際の演奏会は、バレンボイムがピアニストとしてブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」を弾き、そこだけ指揮者が森正さんに交代・・という超変則的な形に変更になった)。ちなみにご紹介の盤には、まさにその1973年の1月に演奏したラロのチェロ協奏曲(クリーヴランドでのライヴ)がカップリングされているが、これが彼女が聴衆の前でキチンと演奏が出来るほぼ最後の機会になってしまったのだそうだ。

音楽が生身の人間の営みである以上、「幻の演奏会」が生まれる事は不可避なのだろう。でも、だからこそ「実現された名演奏」は我々音楽好きの宝物なのだ。でも最後にもう一言、直純さん、惜しかったね・・・

ディスクユニオン吉祥寺クラシック館

〒180-0004
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-24
小島ビル3F
tel : 0422-23-3532
fax : 0422-23-3530
mail: dkkcl@diskunion.co.jp
買取専用フリーダイヤル

0120-273-537

営業時間

11:00~20:00