★猫丸しりいず第203回
◎ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」

 プラハ弦楽四重奏団
 (独DG 4631652 ※9枚組「弦楽四重奏曲全集」)
毎度唐突で申し訳ないが、キャンディーズの話である。

 
彼女たちの意外に短い活動期間は、私が小学校高学年~中学生の頃に当たっているが、当時の「男子」たちの間ではキャンディーズのラン、スー、ミキの3人のうち、誰が一番好きか?という話題は(多分)「定番」だったのではないだろうか(それとは別に一部クラシックヲタク生徒は「ラベック姉妹の姉と妹、どっちが好きか」などという話題で暗い盛り上がりを見せていたが)。

 
実は私は断然ミキちゃん派であった。が、「ミキちゃん派」はまさに「少数野党」で、「ミキちゃんが一番!」と宣言するとその度に「え?」という反応が返ってきたものだ。確かに他の2人に比べ、ミキちゃんは美人であるが「華」みたいなものに乏しく、自分が主役となって歌う事も(ごくわずかの例外を除いて)ほとんど無かった。しかし、あのキャンディーズの名曲たちのハーモニーの「要(かなめ)」となっていたのは何たって彼女だ(「やさしい悪魔」の名唱!)。だから、ミキちゃんが欠けるとキャンディーズの歌が即時崩壊してしまう気がする。派手な活躍はしないが、欠けてしまうとそのグループに甚大なダメージを及ぼす・・・、こういう存在の人は私が最も心惹かれるタイプ。
ミキちゃんはまさにそんな人であった。

 
そして。「クラシック音楽界のミキちゃん」と呼びたい楽器。それは「ヴィオラ」である。そして「ヴィオラ」と言えば「アメリカ」だ。

 
私はこの曲を中学の音楽の授業で初めて聴いた。曲の最初に2回繰り返される印象的な名旋律。2回目を弾いているのがヴァイオリンである事はわかったが、1回目に弾いてる楽器がわからない。チェロか? でもちょっと違うような・・・。そこで授業が終わった後に音楽のT先生(猫丸3度目のご出演。いつもお世話になっております・・)に訊いてみる。すると先生、「ああ、あれはヴィオラ!」という答え。ヴィオラ!! 意外だった。盲点だった。
そして先生は続けて独り言の如く、「あの部分をヴィオラに弾かせるって、凄いアイディアよねえ・・」とつぶやいた。私も全く同感だった。

 
いつも「引立て役」のヴィオラに曲のアタマの一番オイシイ部分を担当させる、という逆転の発想もさる事ながら、まさにヴィオラの持ち味が最高に生きる低い音域で歌わせたのも凄いとしか言い様が無い。しかも、この冒頭の部分で聴き手をアッと驚かせておいて、その後は「アラ、ちょっとだけ目立っちゃってゴメンね」と言わんばかりにいつもの地道な裏方稼業に戻る・・というのが最高にシブい。そう言えば、先だってご紹介した名著「音楽を愛する人へ」の中で、芥川也寸志氏がこの「アメリカ」のヴィオラの事を、「日々割烹着か何かを着て地味に家事をこなしている奥さんが、突然ある日、見るも鮮やかな洋服を着こなし、色気をふりまきながらしゃなりしゃなりとメイン・ストリートに現れ出でて、彼女を知る男どもをびっくり仰天させるような効果」と、これ以上的確とは思えない素晴らしい形容をしている。

 
「アメリカ」のみをとり上げた音盤は、山のように存在するが、今回は、あえてプラハSQによる全集をご紹介。1970年代に集中して録音され、「糸杉」や断章まで収められたコンプリートな全集である。前回の「猫丸」でも述べた通り、ドヴォルザークは超有名大作曲家の割に、あまりに特定の人気作ばかりがとり上げられている気がしてならない。弦楽四重奏曲に関しても「アメリカ」以外の曲がほとんど無視されているのは残念で仕方が無い。「8番」「10番」「14番」などはまさにドヴォルザークならではの傑作と思うのだが・・。他の曲を色々聴いてみると、実は「アメリカ」は彼の弦楽四重奏曲の中ではむしろ「特異」な作品であるという事が感じられて興味深い。

 
自分が目立つ事は滅多に無いが、欠けてしまうと途端に合奏の響きが薄くなり、「やっぱりあれが無いと・・」と思い知らせる偉大な脇役、ヴィオラ。ウ~ン、ますますミキちゃんに似ているぞ。そして、「アッ!あのミキちゃんがいきなりセンターで歌った!」的なビックリ感爆裂の「アメリカ」のヴィオラ。
 
ドヴォルザーク先生、貴方はつくづく偉大なり。