★猫丸しりいず第202回
◎ドヴォルザーク:交響曲第3番
ヴァーツラフ・スメターチェク指揮 プラハ交響楽団
(チェコSUPRAPHON SU3968-2)
ドヴォルザークが大好きである。
 
その作品が素晴らしいから、だけでは無い。彼は「鉄道ヲタク」の元祖でもあるのだ。誠に偉大過ぎる大先輩である。彼の鉄道好きに関する逸話は、真偽の程はともかくとして多数あるが、中でも知られるのは汽車を毎日眺めるのが彼の日課であり、列車の時刻表や機関車の形式を暗記していた・・・という話。彼は30歳代半ばにプラハの駅のそばに引っ越すのだが、一説によればそのアパートは機関区の近くにあり機関車を眺めるのに打ってつけで、それに惹かれて引っ越したのでは・・との事。乗り物マニアとしては、この上なく共感出来る話である。
 
彼が50歳過ぎてニューヨークに赴いたのも、アメリカの鉄道に興味があったからでは無いか・・という憶測まで目にしたことがある(これはさすがに眉唾モノとは思うが)。ただ、実際彼はニューヨークでも「鉄ヲタライフ」を満喫?していたらしい。それにしても、彼のやってる事は今日の鉄道好きと何ら変わるところが無いのには笑ってしまう。男の趣味には「年齢」とか「社会的地位」なんてものは何の障壁にもならないのだ、と再認識させられる。
 
そのドヴォルザークだが、多くの名曲を遺しているにも関わらず、ごく限られた一部の曲ばかりが繰り返し演奏される・・という状態から中々脱却出来ないのは残念だ(この点はメンデルスゾーンに非常に似ている)。そこで今回とり上げるのは、隠れ名作の筆頭「交響曲第3番」。1874年にスメタナの指揮により初演された作品。ちなみに「第1番」は作曲者の生前には演奏されず、「第2番」は1888年の初演なので、この「第3番」はドヴォルザークが自らの耳で初めて聴けた交響曲という事になる。
 
「第1番」「第2番」がどことなく「暗中模索」なテイストを残しているのに対し、その2曲から8年の時を経て生まれた「第3番」は、まさに「一皮ムケました!」という感じ。曲が始まった途端、実にドヴォルザークらしい躍動感と推進力に満ち溢れた音楽がほとばしり、一気に惹きつけられてしまう。一般的にはワーグナーからの影響が強いと言われ、実際第2楽章には、「アレ? こりゃタンホイザーじゃないの?」という部分(引用?)もある。しかし、私自身はそれほどこの曲に「ワーグナーの影」みたいなものは感じない。むしろ、この後に怒濤のように生み出されていく、今日私たちが「まさにドヴォルザーク的な魅力」と感ずる香りの充満した名曲たちの「スタート地点」と位置付けたい名作と思う。ただ、こういうマイナー名曲こそ名演奏で聴かないと、曲の真価が伝わらない。幸いにもこの「第3番」には「天下一!」と叫びたくなる超名演がある。それはチェコの名匠スメターチェク(1906~1986)が1959年に録音したもの。
 
「ボヘミアの横山やすし」と呼びたい風貌のこの名匠、20世紀のチェコを代表する名指揮者の一人と私は確信しているのだが、残念ながら録音は多くなく、日本で普通に流通している録音が最晩年に遺した「わが祖国」位・・というのは寂しすぎる。ただ、この「わが祖国」はチェコ・フィルによるこの曲の録音の中でも横綱級の名演なのは救いではあるが。
そしてこの「第3番」、これまた別格と言いたい名演奏。ワイルドでエネルギッシュなのに、品格があって凛々しい。まさに離れ業である。ステレオ初期の古ぼけた録音ではあるが、そんな些末な事は聴き始めるとすぐにどうでもよくなってしまう。見てくれは悪く、盛り付けもラフなのだが、食べてみると素材の旨さが最高に引き出され、「美味い!」と叫びたくなってしまう料理。そんな感じなのだ。この盤、他にグラズノフの「サクソフォン協奏曲」とガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を収録というムチャクチャなカップリングで、しかもガーシュウィンのソリストがヤン・パネンカ!という、マニア狂喜の内容。この名指揮者の録音をもっと復活させてほしいと切望する次第。
 
ドヴォルザークの作品の魅力である「躍動感」と「推進力」。これはまさに「鉄道」の魅力とも繋がる。「元祖鉄ヲタおやぢ」ならではの名作群から、後輩鉄ヲタの私は今後もエネルギーを充填される事でありませう。