★猫丸しりいず第199回
◎ウォルトン:ベルシャザールの饗宴
サー・アンドリュー・デイヴィス指揮 BBC交響楽団・合唱団
(WARNER APEX 0927443942)
ユーモアと言えば英国人。
 
英国のユーモアの独特の面白さは、その「屈折」した感じにあると私は思う。
単純明快なギャグでは無く、一種オタク的と言うか、「わかる奴だけわかりゃいいんだよ」という感じのシュールなひねくれ加減。「モンティ・パイソン」とか「ミスター・ビーン」とかの、あの感じ。あれがたまらなく良い。
 
クラシック音楽界の一大冗談イベントとして名高い「ホフナング音楽祭」が英国生まれなのは、如何にも・・・と思える。この音楽祭のライヴは高校生の頃からの爆笑愛聴盤だ。「ホフナング音楽祭」は1956~1961年の3回に亘って開催されたものが「元祖」で、その後も開催されてはいるものの、私にとっては50年以上前の「元祖」こそが唯一、正統の「ホフナング」である。
 
クラシックの名曲のパロディが炸裂するこの音楽祭、まさに「珠玉の英国風ユーモア」の集大成という感じである。ハイドンの「驚愕」のパロディなど非常に「分かりやすい」ものも中にはあるが、その多くはかなりクラシック音楽に詳しくなければ笑い飛ばせない、ハイ・ブロウなもの。笑うためにもかなりの「教養」(笑)が要求される代物である。その音楽祭の1961年の第3回のライヴの中に、ウォルトンの名作「ベルシャザールの饗宴」の「抜粋」というプログラムがある。しかも指揮は作曲者自身!! ところが演奏時間を見ると何と2分弱! 「抜粋」とは言え、これはどういう事か?
 
早速聴き始めるが、まずホールの総支配人のアナウンスが長々と入り、続いて聴衆の拍手に導かれてウォルトン登場。ここまでで既に1分以上経過。
まさか・・と悪い予感と不穏な空気(笑)が漂い始め・・。ここから先は「ネタバレ」になってしまって申し訳無いが・・。その「抜粋」は何と「ジャン!」という一音だけ!。一瞬呆気にとられる聴衆。続いて大爆笑と大拍手。茶目っ気たっぷりにステージの袖に引っ込んでいくウォルトンの姿が目に浮かぶようで、
思わず笑いを誘われる。それにしても、このたった1音を出すために大編成のオケと合唱がキチンと舞台に乗っていたのだろうから、まあ大したものだ。
「ミスター・ビーン」なんかもそうだが、英国人の笑いに対する「本気度」は凄い。「ま、この辺でイイヤ」みたいな中途半端な妥協を許さず、徹底的にやってしまう。その精神は、以前当「猫丸」でとりあげたドリフターズにも通じるものがあって(詳しくはコチラで・・ http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/557/)、お笑い好きの不肖猫丸としては、英国人に大いに敬意を表したい。
 
この当時、ウォルトンは英国で無く、既にイタリアの島に移住していた筈なので、恐らくはわざわざこの「1音」のためにロンドンまでやって来たわけだ。この大家を呼んだ奴も奴なら、呼ばれる方も呼ばれる方。もう尊敬する他無い。大作曲家ではあるが、何となく「孤高度」の高いブリテンとかティペットでは無く、ウォルトンに「ホフナングの白羽の矢」が立ったのも、彼のそういうキャラがあっての事だろうか。ちなみにこの「ベルシャザールの饗宴」は、聖書に出てくるバビロニア王ベルシャザールの話を素材とした合唱曲。ユダヤ人を捕虜にしたベルシャザール王が、酒宴で調子に乗ってユダヤの神を冒涜し、天誅が下って死んでしまう・・という有名な話だが、題材から想像されるような重厚長大な感じはこの曲には無い。この作曲家らしい弾ける様なリズム、爽快な音楽運びに溢れた快作である。

今回ご紹介のA・デイヴィス盤は1994年のライヴで、実にノリの良い快演。カップリングが同じく旧約聖書モノのヴォーン=ウィリアムズのシブい名曲「ヨブ」であるのもポイント高い。デイヴィスはその「とっちゃん坊や」的な風貌で損をしている?感もあるが、間違いなく英国を代表する名指揮者の一人。若い頃トロント響を振って録音したボロディンの「交響曲第2番」(SONY)以来、彼の録音は好んで聴いているが、中でもBB C響を振ってTELDECに録音した数多くの英国音楽は高水準の名演揃い。もっと正当に評価されても良い名匠!!