★猫丸しりいず第197回
 
◎チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
        (VIRGINCLASSICS 61124)
 
◎ブラームス:交響曲全集
       (国内EMI/VIRGIN TOCE16126~9 ※限定盤)

クリストフ・エッシェンバッハ指揮 ヒューストン交響楽団
 
 
前回はアメリカ国歌がネタであったが、皆様が「アメリカ合衆国」と聞いて最初に頭に浮かぶモノは一体何であろうか?
 
「自由の女神」? 「グランド・キャニオン」? 「ホワイトハウス」?
それらも確かにアメリカの「象徴」ではあろう。ただ、私は思う。かなりの日本の人々の「心の深層」にある「アメリカ的なイメージ」を喚起する場所。それは「テキサス」ではないかと。
 
広大な乾いた大地。サボテン。カウボーイと農場。そういうどこか「西部劇」っぽい雰囲気は、間違いなくアメリカの象徴的なイメージの一つだろう。そう言えば「オバケのQ太郎」のアメリカオバケ「ドロンパ」も、「キン肉マン」の「テリーマン」もテキサス出身という設定になっていたっけ。日本の2倍近い広大な面積のテキサス州だが、日本で馴染みのあるテキサスのオーケストラと言えば、ドラティやマータとの録音で知られるダラス交響楽団、そしてヒューストン交響楽団の2つであろう。
 
そのヒューストン響は1913年創立で、昨年100周年を迎えた歴史あるオケ。私とこの楽団との出会いはストコフスキーの指揮したステレオ初期のキャピトル音源盤だが、歴代の指揮者を見てみると、そのストコ先生の他にクルツ、フリッチャイ、バルビローリ、プレヴィン、コミッショーナ等々、中々豪華な顔ぶれが並ぶ。ただ、私見では、このオケの最良の時期はエッシェンバッハが音楽監督を務めた1990年代だと思う。
 
エッシェンバッハは、私と同世代以上のクラシック音楽リスナーには未だ「ピアニスト」としてのイメージが強いように思うが、彼が音楽家を志したキッカケは少年の時に聴いたフルトヴェングラーだそうで、元々彼は指揮者を目指して音楽の道に入ったとの事。キャリア当初のピアニストとしての名声も、彼にとっては指揮者の道への通過点に過ぎなかったのだろう。近年フィラデルフィア管、パリ管、北ドイツ放送響等の世界のトップ・オケのシェフをかけもちする程の超売れっ子指揮者になったのは、彼にとってはまさに満願成就でオメデタイという他ないが、私にとっては上記のような超有名オケとのものより、ヒューストン響を振ってVIRGINやRCA等々のレーベルに残した録音の方がもっと指揮者エッシェンバッハの姿勢が徹底されていて、ずっと面白く感じられる。
 
彼の前任者が、既に当猫丸でもご登場頂いた名オーケストラ・ビルダーの名匠コミッショーナ(詳しくはコチラで http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/987/)だった事は、エッシェンバッハにとっては誠にラッキーだったと言えるだろう。コミッショーナに鍛えられたオケの力量にエッシェンバッハは全幅の信頼を寄せ、実に丁寧な演奏をやってのける。例えば今回ご紹介のチャイコフスキーの「フランチェスカ・ダ・リミニ」。この曲、実にオケが鳴りまくる作品で、そのせいか勢い任せの粗い演奏が多く、正直あまり「名曲」と私は感じていなかったのだが、このエッシェンバッハ盤を聴いて認識を改めさせられた。「弾きとばし」の無い、「入念」の一言に尽きる演奏で、全ての部分に指揮者の意志が感じられ、しかもダイナミックな迫力にも欠けていない。この盤のメインの「新世界交響曲」も同じ傾向の素晴らしい演奏で、大いに感心させられる。
 
更に驚愕モノだったのが、このコンビの代表盤と言って良いブラームス。
「テキサス」と「ブラームス」はまさにイメージの乖離が甚だしく、私も当初は「珍演」を半ば期待して聴き始めたのだが・・・。「第1番」を聴き終わって思わずヒューストン方面に向かって「参りました! スミマセンでした!」と頭を下げたい気持ちになった。演奏者名を伏せて、この演奏を聴かせて、これが「テキサスのブラームス」だと見抜ける人が果たしているだろうか。
余程リハーサルを入念にやったのだろう。曲の隅々までが徹底的に構築され、あいまいな部分がまるで無く、ブラームスらしい重厚さも充分だ。こういう演奏は、えてして「木を見て森を見ず」的な息苦しい演奏に陥りがちだが、オケの明るめの音色が丁度良いバランスをもたらしていて、入念・重厚でありながら窮屈な感じの無い快演に仕上がっている。
 
「大学祝典序曲」や「交響曲第2番」での、テューバの猛烈な張り切りぶり(俺、ここしか出番無いんだから目立たせろよ、という奏者の声が聞こえてきそう)には、ああ、やっぱりアメリカのオケだなあとニヤリとさせられるが、
2~4番も「第1番」と同様の入魂の名演で、数多いブラームスの交響曲全集の中で、この盤が全く歯牙にもかけられない存在に甘んじているのは実に惜しいと思わせる。「アメリカ」を象徴する大地から生まれた?名コンビの名演奏。一度先入観を捨てて聴いてみませんか?「テキサスのブラームス」。世の中には「隠れ名盤」まだまだアリ!!