★猫丸しりいず第196回
◎スーザ:星条旗よ永遠なれ
◎スミス:星条旗(アメリカ合衆国国歌)
 
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団・合唱団
(タワーレコード/DECCA PROA183)
 
アメリカ合衆国の国歌「星条旗」と言えば、フランスの「ラ・マルセイエーズ」と並ぶ、世界で最も有名な国歌。この曲を聴くと、つい頭に浮かぶ人がいる。それは、一昨年謎の急死をしたアメリカの人気歌手、ホイットニー・ヒューストン。
 
ちょうど2年前の2012年2月、彼女の死を報ずる米ABCテレビのニュースを見ていたら、この「星条旗」が話題になっていたのだ。アメリカでは大きなスポーツイベント等では、有名歌手が招かれて「星条旗」を歌う事が非常に多い。ところがこの「星条旗」は中々の難曲で、ビッグネームの人気歌手ですら「大失敗」を犯すケースが少なくないのだそうだ。その原因は、この曲の「意外な程の音域の広さ」にある。
 
この「星条旗」、一聴したところではそんな難物には思われないし、それほど音程の跳躍があるようにも思えない。しかし、歌ってみると分かるが、この曲は前半の部分に比べ後半の部分の音域が非常に高いのである。しかも結びの部分が一番高い音域になっていて、そこをキレイにキメないと
一気に締まりが無くなってしまうのだ。ABCニュースでは、「事故発生」のほぼ全ての原因が、無伴奏でこの曲を歌う際に、歌い出しの部分の音程を高く設定しすぎた結果、後半の高音域が歌えなくなってしまう事にあると言っていた。
 
では「星条旗」を最も完璧に歌った人が誰であったか。その人こそが、亡くなったホイットニー・ヒューストンだと言うのである。興味津々で彼女の「星条旗」を聴くと、確かに群を抜いた素晴らしさだった。全ての音域に亘って全く表現力にムラが無い。改めて彼女の実力を再認識すると共に、こういう「追悼」のやり方もあるのだなあと妙に感心してしまった。
 
この超有名国歌「星条旗」をそれでは誰が作曲したのか・・。これが意外に知られていない。昔周囲の友人たちにこの質問をしてみたところ、かなりの確率で「エッ? スーザじゃないの?」という答えが・・・。実際、アメリカ国歌と「星条旗よ永遠なれ」は世間ではかなり混同されているようなのである。実はこの「星条旗」、もともとは英国生まれの曲。ジョン・スタフォード・スミスという作曲家によって1760年代に作られた「天国のアナクレオンへ」という歌が原曲で、その旋律に20世紀になってから現行の歌詞を乗っけたのが「星条旗」。つまりアメリカ合衆国国歌は「世界一有名な替え歌」という事になる。しかも原曲の「天国のアナクレオンへ」は大酒飲みを歌った「お下劣酒飲みソング」だったというから最高だ。この名国歌が元々はモーツァルトの時代に生まれたお下劣ソングだったなんて・・・。しかもそれをパクってよりによって国歌にして朗々と歌うアメリカ人、恐るべし。
ちなみにスーザの「永遠なれ」の方は1896年の作品。つまりブルックナーの「交響曲第9番」と同い年という事になる。
 
この2曲をショルティ&シカゴが演奏した盤が今回ご紹介の一枚。ただこの盤、メインはデル・トレディチの「ファイナル・アリス」で、「星条旗」はほんのオマケの如くくっついているだけなのでご注意を。両曲ともこのコンビらしい完璧無比な演奏。「永遠なれ」の方はバーンスタイン&ニューヨーク・フィルや小澤&ボストンも録音しているが、恐らくは彼らも真っ青の凄さである。「ここまでコワモテでやらんでも」と苦笑してしまう程だ。この盤がタワーレコードの企画盤として復活する時、元々は一緒に録音された地元シカゴのNFLのチーム、シカゴ・ベアーズの応援歌も収録される予定だったが、権利関係がクリア出来ずに外されてしまったのは誠に残念。まあ、アメリカという国はその手の権利関係にはことのほかキビシイ所らしいので、仕方ないとも思える。でもその国の国歌は18世紀英国のお下劣ソングの替え歌とは・・・
 
ああ、謎の国アメリカ。