★猫丸しりいず第194回
 
◎プッチーニ:電気ショック、カンタータ「戦の音を止めよ」 他
 
リッカルド・シャイー指揮 ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ管弦楽団&合唱団
(独DECCA 475320-2 ※「プッチーニ・ディスカヴァリーズ」)
 
プッチーニ(1858~1924)は、遺した作品の数は少ないものの、主要作の多くがコンスタントに演奏・録音され続けている「高打率」に恵まれた作曲家。
 
ただ、彼は何となく「オペラ専業」みたいなイメージが強すぎて、それ以外のジャンルの作品が(「菊」等の少数の例外を除いて)まるで無視されている感が強いのは惜しい。そんなプッチーニの珍曲ばかりを集めたのが「プッチーニ・ディスカヴァリーズ」。この手の珍曲集は資料的価値以上のモノが感じられない品もあるが、この盤に収められた作品には「よくぞ発掘してくれました!」と言いたくなる隠れ名曲が多い。
 
中でも気に入ったのが「電気ショック」。何たってタイトルが最高だ。演奏時間2分弱の吹奏楽のためのマーチである。 
この曲は1896年の作品 「ラ・ボエーム」と同い年という事になるが、イタリア電報協会からのヴォルタ電池100年記念の委嘱作だそうだ。「ヴォルタの電池」なんてコトバを聞くのは高校生の時以来で懐かしいが、これを考えたアレサンドロ・ヴォルタはイタリア北部コモの出身の人だそうで、電圧の単位「ボルト」は彼の名前に由来しているんだとか。
 
プッチーニの曲と言えば、「私のお父さん」や「ある晴れた日」に象徴される
美しいメロディーがユッタリと流れて・・・というイメージが強いのだが、この「電気ショック」はオヤ?と思うくらい軽快で歯切れ良く、イタリアらしいスカッとした明るい味わいに満ちている。実際に演奏される機会の有無に関しては寡聞にして全く分からないが、「珍曲」になっているのが惜しい名作。この盤にはマーチがもう一曲、「シチリアの艦隊」という作品が収録されているが、これも中々良い。
 
次に面白かったのが、カンタータ「戦の音を止めよ」。この曲は1877年の作曲らしく、プッチーニが一連のオペラ作品を生み出す前の初期作品という事になる。このカンタータ、タイトルと裏腹に勇壮で「血沸き肉躍る系」の作品となっており、「ヴェルディか?コリャ」と思ってしまう程だ(実際、何の予備知識も無しにこの曲を聴いて作曲者を当てられる人はほとんどいないのでは・・・)。ちなみに、他に収められた合唱曲「ローマへの讃歌」「聖パオリーノのためのモテット」もヴェルディ系の朗々たる作品で、あのプッチーニがこんな曲を・・・と思わせる。しかもどれもが中々の名作だ。
 
そして、このアルバムの最後を飾るのが「トゥーランドット」のベリオ補筆版(リュウの死の場面以降の補筆部分のみの収録)。これまた実に面白い。耳慣れたアルファーノによる補筆版が、アルファーノのカラーが前面に出たコッテリ厚塗りという趣きなのに対し、現代イタリアを代表する作曲家の一人であるベリオ(1925~2003)によるそれは何だかヒンヤリとした感触。ベリオにはマーラー等をネタにした「シンフォニア」、シューベルトの未完の交響曲の断章を素材にした「レンダリング」等の作品もあるが、いずれも先輩作曲家の作品をあくまで「素材」として突き放して扱い、結果いかにもベリオらしい曲に仕立ててしまうのがこの人らしい。カラフがトゥーランドットに求愛する場面は、アルファーノ版が「瞳炎上中の星飛雄馬」みたいな勢いで迫っていくのに対し、ベリオ版は同じ素材を用いながら「カラフさん、そんなんで大丈夫ですか」と心配になるほど「冷静」。そしてアルファーノ版の、あの「ド派手豪華絢爛」の幕切れと正反対の静かに消え入るようなエンディングも印象的。一聴の価値、充分にアリだ。
 
多大な手間とコストを要する割に、商業的にはペイしそうもないこの手の企画だが、その意義はやっぱり大きい。厳しい経済環境の中でもこういう「志」が感じられる仕事を絶やさないでほしいと切に思う。さあ、もう一度聴いてみるか、「電気ショック!!!」。